修は、いつも平穏な日常を送っていたが、彼には一つの秘密があった。
それは、特定の古い本を手に入れてから、毎晩同じ夢を見るようになったということだ。
その本は、彼が友人から譲り受けたもので、表紙には薄い埃がかかっていた。
表紙をめくると、中には色濃い文字が並んでおり、何やら不気味な雰囲気が漂っていた。
最初のうちは、単なる夢だと思っていた。
しかし、どの夢も、同じ内容で繰り返された。
それは、暗い森の中で、何かに追いかけられるというものだった。
修はいつも、全速力で逃げようとするが、呼びかける声が響き、振り向くと、そこには得体の知れない影が迫ってくるのだ。
そして、修は目が覚めると、自らの心臓が高鳴り、汗をかいているのを感じた。
ある晩、夢の中で彼はついにその影の正体を見た。
それは、彼の姿をした別の自分だった。
二人は森の中で対峙し、修はその影と無言のまま見つめ合った。
影は彼に向かって指を差し、自分の背後から何かにさらわれるように指示した。
しかし、何をするべきなのか分からなかった修は、立ち尽くすことしかできなかった。
その日から、修はその夢に悩まされるようになった。
朝が来るたびに、彼の気持ちはどんどん重くなり、夢と現実の境界も曖昧になっていった。
そして、ある日、森の中にいるはずの影と目が合った瞬間、今までとは違う現象が起こった。
影は静かに微笑み、修に向かって「この本を解読しなければならない」と告げたのだ。
修は急いで本を開き、そこに書かれている内容を読み解こうと試みた。
しかし、言葉の意味が理解できず、まるで迷宮に入ったようだった。
著者不詳のその本には、夢の中の出来事と密接に関わる不思議な条理について書かれていた。
そして、夢の中で自分の影と目が合った瞬間から、その影が何かを要求していることを彼は感じ取った。
日に日に夢の中の出来事が現実と交錯し始め、修は心の中の不安を抑えることができなくなった。
修の周囲でも、次第に奇妙な現象が起こり始めた。
他の人々も、同じように不穏な夢を見始め、彼らの周りで異常な出来事が頻発した。
その光景に、修は恐怖を感じ、「この本は呪われている」と思わざるを得なかった。
ある晩、修はついに決意を固めた。
「この夢の原因を突き止める！」彼は夢の中で影と向き合うことにした。
夢の中、再びあの暗い森に足を踏み入れる。
影が待っていた。
「私を呼び覚ますのは、お前だ」と影は淡々と言った。
修は恐怖を超え、ついに影に向かって質問した。
「なぜ、こんなことをするのか？」
すると影は微笑みながら言った。
「お前がこの本を解読した時、私の一部を解放したのだ。お前が自らの恐怖を克服しなければ、私も永遠にこの影のままだ。」修はその言葉の意味を理解し、心に決めた。
彼は夢の中でその影に立ち向かい、自分を恐れることなく見つめ返した。
すると、影は徐々に薄れていき、修の目の前から消えていった。
目が覚めると、修は一瞬、心地よい静けさを感じた。
彼は自らの恐怖に立ち向かったのだ。
だが、古い本はそのまま、修の手元に残っていた。
彼はそれを開くことができず、その後も本の存在を忘れようとした。
しかし、夢の中で影と向き合った経験は、彼にとっての新たな記憶となり、心の奥に残り続けるのであった。
それ以来、修は毎晩の夢の中で新たな冒険を体験するようになり、心に安らぎが戻った。
しかし、本だけは決して手放せない象徴として、彼の生活に残り続けた。
時折、夢の中で影の存在をふと思い出しながらも、彼はそれに立ち向かっていく覚悟を持ち続けた。
影との対峙が、彼に勇気を与え、現実を生きる力となったのだ。
