「闇に消えた祈り」

静かな夜、月明かりが照らす古びた神社がある。
その神社は長年、村人たちから忘れ去られ、荒れ果てていた。
ただ一つの小道を挟み、その先には藪が広がっているが、誰もそこへ足を踏み入れようとはしなかった。

村には創がという若い男性がいた。
彼は幼い頃から、霊的な存在に惹かれ、神社のことを知ると同時に、そこに隠された秘密を調べたくなる気持ちを抱いていた。
ある晩、創は意を決して神社を訪れることにした。

神社に着くと、不気味な静けさが彼を包んだ。
月の光が神社の鳥居を照らし、その先にある社の影を強調するかのように、薄暗い空間が広がっていた。
創は懐中電灯で社の中を照らし、その光が古びた祭壇を照らしたとき、彼は一瞬、何かの気配を感じた。

「誰かいるのか?」創は声を上げたが、返事はなかった。
恐れはあったものの、彼は興味に勝てず、社の奥へと進んだ。
その瞬間、彼の頭に響いた声があった。
「私はここにいる……」

驚いた創は立ち尽くした。
声は女性らしく、悲しみに満ちていた。
彼は周囲を見渡したが、誰もいなかった。
ふと、祭壇の前に一枚の古い巻物が置かれているのに気づく。
それは正体不明の文字で埋め尽くされ、ところどころ色あせていた。
興味をそそられ、創はそれを手に取った。

その瞬間、霊が姿を現した。
彼女は薄暗い空間に映える白い着物を纏い、哀しげな微笑みを浮かべていた。
創は恐怖と好奇心の狭間で動けなくなった。
彼女の姿は、まるで生きているかのような現実感があり、それがかえって彼の心を掻き立てた。

「私は、名を美咲と言います。この神社に封印された存在です」と彼女は言った。
「あなたは、私が求める真実を知りたいと思っているのですね?」

創は頷いた。
彼の心には一つの疑問があった。
この神社にどんな秘密が隠されているのか、そして、美咲が何を求めているのかを知りたかった。

「私のために、禁じられた儀式を行ってください」と彼女は訴えた。
「それによって、私は解放され、そして、あなたもまた真実を見ることができるでしょう」

恐れが先立ったが、創は彼女の目に宿る真剣な思いを見つめ返した。
「どんな儀式ですか?」彼は尋ねた。

「その巻物に記された二つの言葉を唱え、私の心の奥にある未練を解き放ってください」と美咲は指示した。

創は巻物を見つめ、その言葉を心に刻んだ。
静寂の中で彼は二つの言葉を声にした。
それは、忌まわしい過去を思い出させるものであった。
「解放せよ、真実はもう恐れぬ」と。

その瞬間、神社の内部が暗闇に包まれ、耳をつんざくような風の音が響いた。
目の前の霊、美咲の姿は揺らぎ、彼女の表情は次第に和らいでいった。
やがて、彼女の姿が消えかけ、彼女の足元に光が生まれた。

「ありがとう……あなたのおかげで、私は解放される」と美咲は微笑むと、その瞬間、彼女の姿はまるで消えていく煙のように、光の中へと吸い込まれていった。
そして、神社の空気が一変し、嵐は静まり、満ち足りた静けさが戻ってきた。

創はその光景に息を呑んだ。
彼の中には、恐れではなく、感謝の気持ちが満ちていた。
美咲を解放したことで、彼もまた何か大切なものを得た気がした。
心の奥に響く扉が開かれ、新たな世界が広がっているのを感じたのだ。

その夜以来、創は神社をもう一度訪れることはなかったが、彼の心には美咲との出来事がしっかりと刻まれ、彼はその思い出を大切にし続けた。
それは、恐怖を乗り越えた者だけに与えられる特別な現実だったのだ。

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