「闇に消えた星」

街の中心にある小さな家。
外観は古びていて、塗装がはがれた壁には、年月を経た深いひび割れが入っている。
この家には、佐藤という名の若い夫婦が暮らしていた。
二人は幸せな家庭を築いていたが、ある日、妻の美香が突然姿を消してしまった。

美香の失踪から一週間が経った。
佐藤は毎日、彼女を探し続けたが、誰も情報を持っていなかった。
近所の人々も心配して顔を出してくれたが、助けにはならなかった。
彼の心には焦燥感と恐怖が渦巻いていた。
美香はどこへ行ったのか、何が起きたのか、ただ答えを求めるばかりだった。

ある晩、佐藤は夢を見た。
淡い光の中に、美香の姿が浮かび上がっていた。
彼女は微笑みながら手を振っている。
その瞬間、空に異変が起きた。
雲間から明るい光が差し込み、彼の頭上に不気味な影が浮かび上がった。
「助けて!」と美香の声が響く。
佐藤は夢の中で彼女に向かって駆け寄ろうとしたが、足が動かなかった。

夢から目覚めた佐藤は、動悸が激しく、冷や汗をかいていた。
今夜も美香からのメッセージのように感じた。
彼女の高笑いが、まるでどこか遠くから響いてくるようだった。
それ以降、彼は空を見上げることを避けるようになった。
日は過ぎ、美香の行方に関する手がかりがなかなか得られない。
焦りは募るばかりだった。

ある日、佐藤はふとしたきっかけで、昔の新聞を読み返していた。
そして目に留まったのは、二十年前に同じ街で起きた事故の記事だった。
その事故は、ある家の屋根から落ちた人が命を落としたというもので、その家は美香が消えた家とほぼ同じ場所にあった。

「もしかして…」と、佐藤は思った。
彼はその日の夜、街の明かりが消えるとともに、家具に覆われた家を訪れることにした。
冷えた空気が彼の背筋を凍らせた。
家の中に入ると、かすかな声が聞こえてきた。
「私を見つけて、佐藤…」

それは美香の声だった。
彼は心臓が高鳴る思いで、声の方向へと進んでいく。
その先には、かつて美香が好きだった部屋があった。
部屋の窓からは、外の星が煌めいている。
彼女はしっかりとそこにいるようで、しかしその体はまるで薄明かりに消えてしまいそうだった。

「美香!」と叫ぶ佐藤。
しかし、彼女の存在は次第に薄れていった。
「早く助けて、私をここから出して…」その声は叫びに変わり、彼の心に重くのしかかる。
佐藤は部屋の中を探したが、特に変わったものは見当たらなかった。

命を懸けて、佐藤は涙を流しながら美香を呼び続ける。
すると、屋根の上に、暗い影が現れた。
その影は、彼に向かって力を持ったように迫っていく。
佐藤は恐怖で立ちすくんだが、美香の声が彼を励まし続けた。
「お願い、私を見て!」

照らされた空には、一際大きな星が浮かんでいた。
その直後、天からの光が屋根を照らし、影が消え失せる。
その瞬間、彼の視界が鮮明さを取り戻し、目の前に美香の姿が現れた。
彼女は光に包まれ、彼に向かって微笑んでいた。

「一緒に始めましょう、ここから新しく。」美香は手を差し出す。
佐藤はその手を取ると、冷たい闇が彼を包み込む。
彼は意識が消え、ただ彼女の微笑みを見つめながら、空の上で二人の幸せな未来を夢見るのだった。
暗闇から解放された彼らは、失った過去を取り戻すことはできなかったが、天に昇る光と共に新しい始まりを迎えることができた。

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