静かな田舎町、薄暗い森の奥にひっそりと佇む古びた廃墟があった。
その廃墟は、長年にわたって誰も近づかない場所とされ、町の人々からは忌み嫌われていた。
ある日、大学生の健人と彼の友人たちは、その廃墟に肝試しに行くことを決めた。
高校時代からの仲間である真理と翔太も一緒だ。
みんながその場所の噂を耳にしていたが、何がそんなに恐ろしいのかという興味が、彼らを引き寄せたのだった。
薄暗い森の道を進みながら、健人は少し不安を覚えていた。
「本当に大丈夫かな?」と口にする。
しかし、真理は笑って言った。
「怖がりすぎよ。私たち、何度も冒険してきたじゃない。それに、今日は満月だし、特に何も起きないわよ。」翔太が賛同し、「それよりも、昔の噂話を覚えてるか?ここには、闇を抱えた女の霊が出るって……」と続けた。
ついに廃墟に到着した彼らは、中に足を踏み入れた。
陽が沈みかけ、薄暗い室内には、カビの匂いと静けさが広がっていた。
廃墟はどこか神秘的で、同時に冷たい空気が流れている。
健人はその冷たい感覚に少し身震いしたが、友人たちの存在が心強かった。
部屋を進んでいくと、古い家具や崩れかけた壁が目についた。
真理が突然、「ここに人が住んでいた頃、何があったのか知りたいね。」と言った。
翔太は、ここに住んでいた女性が愛する人に裏切られ、心に闇を抱えていたという話を語り始める。
「そして、彼女が絶望の中で亡くなって、その悲しみがこの場所に残っているんだ。」
その瞬間、突然の音が耳をつんざいた。
物が落ちる音だ。
三人はドキッとし、辺りを見渡した。
「あれ?誰かいるの?」真理は声を震わせて言った。
しかし、答えは返ってこなかった。
健人は「行ってみよう。何か不気味なことがあると思う。」と言い、声のした方へ進むことに。
廃墟の奥に進むと、突然、真っ暗な部屋に出た。
その中から微かにガタガタという音が響く。
翔太が懐中電灯を照らすと、そこには古い鏡が無造作に置かれていた。
「これが音の原因かな?」翔太が言うと、健人は鏡に近づいてその表面を覗き込んだ。
鏡の中には、彼の背後に立つ真理と翔太が映っていたが、ふとその映り方が変わった。
映る二人の顔が次第に無表情になっていく。
健人は心臓が止まるかと思った。
「何だ、これ!おかしいぞ!」と声をあげた。
その瞬間、鏡に映った真理と翔太が、急に目の前で割れた。
その瞬間、暗闇が急に周囲を包み込み、冷たい風が健人の背中を押した。
彼は恐怖で硬直し、まるで何かが彼を引きずり込むかのように感じた。
振り向くと、真理と翔太の姿が消えていた。
「真理、翔太!」健人は叫んだが、恐怖にかられた彼の声は、廃墟の中でこだまし、消えていった。
その後、健人は一人、廃墟の中を彷徨った。
どこを探しても友人たちの姿は見えず、心の中に恐怖が押し寄せてくる。
最初は興味があった冒険も、今は生死を分ける緊迫した状況になっていた。
何かが彼の周囲で動いているような気配を感じながら、彼は必死に出口を探し続けた。
そして、ふと脳裏に思い浮かぶのは、翔太が話していた女の霊のこと。
彼女は自らの悲しみを背負い、闇に飲み込まれていたのだ。
それが彼らに何を求めていたのか、健人はあの瞬間にあった恐ろしい現象の意味をついに理解した。
「彼女を助けなければいけない……」と心から思った。
絶望の淵に立たされたまま、健人は必死に振り絞るように叫んだ。
「ここにいるのは誰ですか!私たちを助けて!」その声の響きと共に、冷たい空気が流れ込む。
しかし、返事はない。
彼の心に残るのは、ただの静寂だった。
やがて彼は廃墟の出口にたどり着いた。
振り払うように外に出ると、月明かりが彼を包み込み、暗い陰が徐々に薄れていった。
振り返った廃墟の中には何も残されていないようだった。
友人たちの姿も、彼女の影も消え去ったかのように思えた。
それ以降、彼は町に戻っても、廃墟の噂を語ることはなかった。
だが心の奥底には、闇を抱えた女の願いが静かに囁き続けることになったのだった。