「闇に囚われた影たち」

ある静かな秋の夜、佐藤健太は大学のサークルの集まりを終え、寂しい帰り道を歩いていた。
友人たちと別れた後、彼はふと思い出した。
家の近くに廃墟になったテニスコートがあったはずだ。
その場所に行くことは、この町の伝説に触れるいい機会だと感じた。

彼はその廃墟へ足を運んだ。
暗く沈んだ雰囲気に包まれたコートは、かつては賑わっていたのだろうが、今では落ち葉がたくさん積もり、朽ち果てたネットが風に揺れていた。
常に静まり返ったそこには、どこか異様な緊張感が漂っていた。
まるで視線があるかのような気配を感じながら、彼は恐る恐る中に入って行く。

その時、彼のスマートフォンが震えた。
画面に表示されたのは、無名のアカウントからのメッセージだった。
「ここに来たのか?」健太は驚いた。
そして心の中でさっさとこの場所を離れようと決意した。
しかし、好奇心が勝り、無意識に中を探索することになった。

コートの中央に足を踏み入れた彼は、何か異変が起きるのを感じ取った。
周囲の空気が重たく、若干のひやりとした感覚が背筋を走り抜けた。
ふと、誰かの呼びかける声が聞こえた。
耳を澄ませると、「助けて…」という低い声が反響している。
彼はその声の主を探そうと、コートの端に向かって歩き出した。

その声が、どこから伝わってくるのか分からない。
不安が膨れあがり、心臓が高鳴る。
すると、目の前におぼろげな人影が浮かび上がった。
彼は思わず立ち止まる。
そこには、白いテニスウェアを着た若い男性が、まるで助けを求めるかのような表情を浮かべていた。

「君もここに来たのか。私たちを助けて……」その影は、まるで生きているかのように健太に語りかける。
顔の表情は変化せず、ただ薄ら笑いを浮かべていた。
その瞬間、彼はこの場所にかつて起こった事故のことを思い出した。
それは数年前、テニスサークルの活動中に起きた悲劇的な事件で、若者たちが一夜にして姿を消したという噂だ。

「何を知っているんだ?」彼は恐怖心を隠しきれずに質問した。
影はゆっくりと近づいてきて、手を差し伸べ、言った。
「私たちは、この場所から出られなくなってしまった。君の助けが必要なんだ。」

その瞬間、周囲が一層暗くなり、彼はあたかも何かに取り込まれるかのような意識を失いかけた。
影が「継がれた運命」と囁く声が耳元に響く。
まるで彼をこの場所に引き寄せようとしているかのようだった。
健太は足を震わせながら、その場から逃げ出そうとしたが、影の手が彼の腕をつかむ。
冷たさが全身を包み込む感覚がした。

「君を選んだのだ、次の候補者として!」影は叫び、周囲の暗がりから他の影たちが現れた。
彼は背後から迫る影たちの恐怖に駆られ、必死にその場を脱出しようと全力で走り出した。
足がもつれそうになるが、どうにかコートの出口にたどり着く。

そのまま町を離れ、家に帰った健太は、ベッドの中で震えながら何が起こったのかを整理しようとした。
しかし、彼の心の隅には、あの影の声がいつまでも残り続けていた。
「私たちも同じ道を歩いた。次は君の番だ……」

その言葉は、彼の心の奥底で揺らぎながら消えることはなかった。
秋の夜空の下、何かが彼を待っているのではないかと感じながら、健太は眠りにつくことができなかった。

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