深夜、月の光が薄く差し込む街の片隅にある小さなアパートの一室で、大学生の佐藤は静かに勉強をしていた。
周りが静まり返る時間帯に、彼は試験の準備に取り組んでいたが、心のどこかに不安があった。
つい先日、彼は友人から聞いた「憑りつき」に関する話が猛烈に気になったからだ。
彼はその話を自分のものとして捉え、心の中で何度も反芻していた。
その日、佐藤の部屋に突然、友人の健二が訪れた。
「佐藤、何をやってるんだ?」と声をかけたが、佐藤は一瞬びっくりした。
彼は勉強にのめり込んでいて、時間の流れを忘れていたからだ。
健二は、軽い冗談を交えながら、最近の噂話を始めた。
「この近くにある古い神社、夜に行くと何かを見かけるって噂だぜ。憑かれるってこともあるから、気をつけろよ。」
佐藤は笑い飛ばしながらも、その話に興味を示した。
「行ってみようかな、面白そうだし」と言うと、健二は「おいおい、マジで行くつもりか?」と驚いた。
佐藤は「別に話を聞いただけだよ。ただ、自分の目で見てみたいだけさ」と憎らしい顔で返した。
それから数日後、佐藤と健二は深夜に神社へ向かうことにした。
薄暗い道を歩きながら、緊張感が徐々に高まっていく。
神社に到着すると、闇の中にさらに不気味な空気が漂っていた。
月明かりに照らされた境内では、風の音しか聞こえない。
しかし、彼らの心には一抹の興奮があった。
健二は「本当に大丈夫なのか?」と不安を漏らし、佐藤は「大丈夫だ、何も起こらないよ」と強がった。
しかし、彼の心の中では、この神社が持つ不思議な力に対する恐怖が渦巻いていた。
二人は神社の奥へと進む。
ふとした瞬間、佐藤の背筋がぞっとした。
何かの気配を感じるような、その冷たい感覚は彼の心を掴んで離さなかった。
それと同時に、健二が何かを悲鳴のように叫んだ。
「佐藤!後ろ!」と振り返った瞬間、佐藤の目に映った光景は目を疑うほどのまるで夢のようなものだった。
そこには、今まで見たことのない影が立っていた。
その影は形を持たず、まるで霧のように漂っているように見えた。
佐藤は恐怖で体が硬直し、健二が慌てて佐藤を引っ張った。
「逃げよう!」と言いながら、二人は恐る恐る境内を離れた。
その夜から、佐藤の身には異変が起こり始めた。
何かに憑りつかれているかのような感覚。
それは彼の日常生活に影響を及ぼし、毎晩悪夢を見続けることになった。
その夢の中では、あの影が彼に寄り添い、何かを囁いているのだった。
友人たちは、佐藤の様子が明らかにおかしいことに気づいた。
彼は日常生活にも支障をきたすようになり、ついには大学にも行けなくなってしまった。
健二は心配し、「お前はあの神社のせいだろう、絶対に行くべきじゃなかった。なんとかしないと!」と叫んだ。
佐藤は否定することができなかった。
彼の中には、あの影の存在が確かに残っていた。
夢の中で「廻(まわ)れ」と囁くその声には、冷たくも甘美な魅力があった。
それは、彼を引き寄せてやまない何かがあったからだ。
絶望の中、佐藤はとうとう自ら神社を訪れる決意をした。
彼は影と対峙し、憑かれた自分を取り戻そうとした。
夜の闇の中、佐藤は境内に立ち、反響する自分の心の声と向き合った。
「お前が憑いているのか、私を支配したいのか?」
だが、影はただ静かに彼を見つめるばかりだった。
その瞬間、佐藤の意識は奪われ、次第に周囲がぼやけ始めた。
人間的なものが消え去り、彼は「廻る」のその感覚の中に飲み込まれ、そのまま何もかもが消えていった。
結局、佐藤は神社の闇に飲み込まれたまま、誰の目にも留まらない存在となってしまった。
彼の身に起こったことは、そこで永遠に「廻り続ける」ことだった。
再び、彼の姿が影となって夜の街を徘徊することはなかった。