昔、北海道の小さな村に、人食い地蔵と呼ばれる怪祟り伝説があった。
その地蔵は、村の外れにひっそりと佇んでおり、目が合った者は必ず不幸に見舞われると言われていた。
村人たちは恐れおののき、誰も近づこうとはしなかったが、好奇心に駆られた若者が一人、恐ろしい冒険に足を踏み入れることになる。
その若者の名は翔太。
彼は友人たちの話を聞き、その地蔵に会いに行くことを決意した。
夜の帳が降りる頃、彼は懐中電灯を片手に、村の外れへと向かっていった。
道中、一人でいる不安を感じつつも、心のどこかで人食い地蔵の真実を知りたいという気持ちが優っていた。
やがて、薄暗い森を抜けて地蔵の前にたどり着く。
そこには、苔むした古びた石像が控えていた。
地蔵は二体あり、無表情の顔をして、まるで翔太を見下ろしているように感じた。
恐怖を振り切るように、彼は懐中電灯を地蔵に向けた。
「本当に人を食べるのか」と独り言で呟く。
その瞬間、地蔵の目が仄かに明るく光り、翔太の心臓がドキリとした。
その光の中には、かつて地蔵が食べた人々の顔が浮かんでいた。
彼らは無惨な表情で、苦しみの中で自らの運命を嘆いているようだった。
翔太は背筋が凍りつく思いをしたが、なぜか目が離せなかった。
「人を食べるな」と叫びたい衝動に駆られたが、口が動かない。
地蔵は翔太に向かって不気味な声で囁いた。
「お前の心の中に、私を呼ぶものがいるのではないか?」
驚愕し、翔太は後ずさりしたが、足がもつれて転んでしまった。
その瞬間、地蔵の二体が動き出し、彼に迫ってきた。
恐ろしさの余り、翔太は必死に逃げようとしたが、足は地面に縛り付けられたかのように動かなかった。
「この村で何があったのか、知らぬ間に私を呼んだのはお前だ」と、地蔵は揶揄うような笑みを浮かべた。
翔太は「お願い、許してくれ」と懇願したが、地蔵は耳を貸す様子もなかった。
その刹那、彼の周囲に漂っていた冷たい霧が、彼の視野を遮り、意識が遠のいていった。
気がつくと地蔵の前にいたのは、翔太ではなく彼の声だけだった。
村の人々は翔太の帰りを待っていたが、一向に現れず、心配になる。
数日後、彼の姿が村の外れに見つかったときには、すでに亡きものとなっていた。
しかも、彼の体はまるで地蔵が食べたかのように、寸分も手を加えられた様子なしに損なわれている。
その後、村の人々は更なる警戒を強め、人食い地蔵には近づかなくなった。
そして、この恐ろしい伝説は、今も語り継がれることになった。
誰もが地蔵を怨み、地蔵が心の闇を食らい続ける限り、さらなる犠牲者が出るのではないかと恐れながら。