「間に残された者たち」

彼の名は佐藤直樹、年齢は29歳。
小さな町に住む彼は、特に目立った特徴もない普通の会社員だった。
毎日同じ時間に出社し、同じ時間に退社する日々を重ねる中、彼の日常に奇妙な現象が忍び寄ってきた。

ある晩、直樹は仕事が終わった後、会社近くの公園を通り抜けることにした。
心の中で疲れが溜まっているのを感じつつも、青白い月灯りが照らす静かな公園の雰囲気に少し癒やされていた。
しかし、その時、ふと耳にした微かな音に彼は立ち止まる。
「助けて…」というかすかな声が聞こえたのだ。

直樹は驚き、声の主を探し始めた。
あたりを見回しても誰もいない。
しかし、声はさらに近くから響いてくる。
直樹は恐る恐るその音のする方向に歩み寄ると、彼の目の前に一人の女性が立っていた。
彼女は薄い白いドレスを纏い、顔は青白くて、どこか現実離れした雰囲気を漂わせている。
彼女の目は直樹をじっと見つめていたが、どこか悲しげだった。

「私はここにいるから…」彼女は言った。
「私の魂を、解放してほしい。」直樹は彼女の言葉の意味を理解できなかったが、何か引き寄せられるように彼女に近づいていく。
周囲が不気味な静けさに包まれる中、彼女の表情からは言いようのない悲しみが滲み出ていた。

「何があったのか、教えてほしい」と直樹は語りかけた。
彼女は静かに語り始めた。
「私はここではなく、間にいるの。生と死の狭間。この町で、誰かに気付かれることなく、ずっと彷徨っているの。」彼女は直樹を見つめる。
「あなたなら、もしかしたら…私を助けられるかもしれない。」

直樹は心のどこかで、彼女の言葉を信じたかった。
彼女を見るたび、その悲しみが心に響くようだった。
人を助けることは、自分自身が忘れかけていた大切な感情だったからだ。
直樹は「どうすればいいのか、教えてくれ」と言った。

彼女はゆっくりと答えた。
「私を昇華させて…この間から出してほしい。ただ、注意してほしい。魂は簡単に解放されることはない。そして、あなたもその代償を背負うかもしれない。」

直樹はただ相手の目を見つめる。
そして、彼の中に不思議な感情が芽生えていた。
彼女のために何かできることはないのか。
助けたいと思った。
二人はその後、満月の光の下、儀式を始めた。
直樹は彼女の名を呼び、その存在を感じ取ろうとした。

だが、儀式が進むと共に、直樹の周囲には異様な寒気が漂ってきた。
何かが彼を貪り取ろうとするような気配。
それでも直樹は一歩も引かず、彼女の手を強く握りしめた。
「あなたの魂は、もう解放されるべきだ!」

突如として、白い光が彼の体を包み、彼女は微笑んだ。
「ありがとう…私の心の闇を消してくれて。」その瞬間、直樹は彼女の姿が消えていくのを見た。
彼女の魂が空に昇っていき、彼女が安らかに微笑んでいるように感じられた。

しかし、その直後、直樹の身体に異変が起きた。
彼の胸の奥から恐怖が押し寄せ、何かしらの生気が剥がれ落ちていくのを実感した。
彼女を助けた代償として、彼自身が人と人の間に取り残されたかのような感覚が広がった。

その後、直樹は何処かの間に囚われてしまったかのように、毎晩同じ公園に足を運ぶことになった。
彼女の姿は、もうそこにはいないが、その言葉だけが彼の中に残り続けていた。
「あなたも、私と同じ道を歩むの。」

彼は何度も心の中で問う。
「どうして、こんなにも心の闇が広がってしまったのか?」その夜から、彼もまた、間に取り残された魂の一部となったのだった。

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