「開かれた扉の向こうに」

少し古びた村の外れに、木々が生い茂る神社があった。
村人たちはその神社を避けており、特に森の奥には立ち入らないよう言い伝えていた。
その理由は簡単だ。
この神社には、古くから「開かれた扉」と呼ばれる恐ろしい現象が伝わっているからである。

ある日のこと、村に住む若い少年、健太は、興味本位でその神社を訪れることにした。
彼は内心で不安を覚えつつも、仲間たちの話を信じて疑わず、恐怖を振り払いながら進んでいった。

神社に着くと、そこは静まり返っていた。
風もなく、鳥の声も聞こえない。
木々の間から覗く月明かりだけが、周囲を薄明かりに照らしていた。
健太は神社の正面に立ち、何か不気味な気配が感じられ、心臓が高鳴るのを抑えることができなかった。

それでも、健太は勇気を振り絞り、神社の中へと足を踏み入れた。
中は陰鬱で、扉が一つある。
扉をよく見ると、朽ちた木の表面に不気味な刻印が施されていた。
それは、何かを「開く」儀式に関するものであった。

彼は心の中で警鐘が鳴ったが、それでもその扉を開けずにはいられなかった。
手をかけた瞬間、冷たい風が一瞬だけ彼の顔を撫でた。
ドキドキしながら扉を引いた。
すると、耳をつんざくような音とともに、扉が静かに開くのだった。

その瞬間、彼の目の前に広がったのは、異次元のような光景だった。
まるで時間が止まったような美しい風景だが、どこか不気味な色合いが漂っていた。
健太はその美しさに引き込まれ、思わず一歩踏み出してしまった。

と、その時、彼の背後からかすかな声が聞こえた。
「助けて…」それはか細い声で、明らかに誰かが助けを求めているようだった。
健太は振り返ったが、誰もいない。
恐怖に襲われつつも、健太は再び声の方へと向かう決意をした。

その声はますますはっきりとしてきた。
「ここから出して…」健太の心には疑問が沸き上がったが、その声が持つ悲しみや苦しみを感じ、無視できなかった。
助けたい、一緒に逃げたい、彼はそう思った。

声は彼を導くように近づき、彼は再びその扉を越えた。
しかし、森の奥へ進むにつれて不安が膨れ上がってきた。
前方には暗い影が見え、その奥にかすかな光が揺れていた。
声はさらに引き寄せるように響いた。
「ここにいる…私を助けて…」

ついに影の中に入った健太は、その光の正体を目の当たりにした。
それは、かつてこの場所に封じ込められた霊が、健太に手を差し伸べている姿だった。
彼は自分が何をしてしまったのかを理解した。
「あなたを解放したい」と言う彼の声は震えていた。

霊は、冷たい目で健太を見つめ、「その代償が必要だ」と言った。
瞬間、健太の心の奥底に潜む恐怖が蘇った。
「犠牲を払わなければならない」という村人たちの言葉が脳裏をよぎる。
何かを我慢しなければ、この霊は開かれた扉の向こうに戻れない。

「勇気を持って、私を解放してほしい」と霊は囁いた。
それを聞いて、健太は自分が何を失わなければならないのか、その重さを理解した。
友人たちのために、この村のために、そして自分自身のために…。

彼は決断を下した。
「あなたを解放するよ」と叫び、必死で霊を見つめた。
一瞬、冷たいものが彼の心を貫いた。
健太はその瞬間、自分の中で何かが崩れ落ちていく感覚を覚えた。
彼は自分の命の一部を霊へと捧げる覚悟を決めた。

しばらくの後、彼は神社の入り口に戻っていた。
何もなかったかのように、森は静まり返っていた。
ただ一つ、彼の心の中には空虚感が残っていた。
解放された霊は、彼を永遠に追いかける存在となってしまったのだ。
健太は、その影が決して自分を離れることはないと感じていた。

彼の中には、圧倒的な無力感と霊を解放したことへの後悔、そしてこれから贖わなければならない何か重いものが残った。
村人たちはその後、彼の変化に気づくことはなかった。
しかし彼自身は、自分が失ったものを決して忘れることはできなかった。

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