「開かぬ扉の向こうに」

ある静かな町に、古びた一軒家があった。
この家は長年空き家となり、周囲からは少し不気味だと噂されていた。
その家には特異な戸が一つあり、どんなに強く押しても引いても、決して開くことはなかった。
ある日、若い女性、直子は友人たちと肝試しにその家を訪れることになった。

友人たちと共に薄暗い廊下を進む直子は、家の奥に続くその戸に引き寄せられるような感覚を覚えた。
「あれ、開けてみない?」と冗談交じりに友人の一人が言ったが、何度試みても戸は動かなかった。
周囲の静けさが不気味に感じられ、直子は心の中で何かが起こる予感に襲われる。

その時、暫く静まり返った家の中に、微かな声が響いた。
「開かぬ扉に触れてはならぬ。」驚いた直子は友人たちに振り向いたが、彼らは無邪気に笑っている。
「何か聞こえた?」と尋ねるが、誰も耳を傾けることはなかった。
彼女はそのまま戸に手をかけた。
すると、急に夢中になり、力を入れて引き寄せようとした。
その瞬間、何かが彼女の心を止めた。

心臓が高鳴り、まるで時間が止まるような感覚に陥った。
戸の前で立ち尽くす直子は、不安が増していくのを感じた。
気がつくと友人たちの姿が彼女の視界から消え、暗闇の中に一人ぼっちになっていた。
消えたのは彼らだけではなく、彼女の周囲の時間も止まったかのようだった。

「直子、助けて!」という声が不意に聞こえてきた。
振り返ると、隣の部屋にいる友人たちの姿が見える。
けれど、彼らはまるで遠くから悲鳴を上げているかのように、直子には届かなかった。
彼女は動けず、ただ戸に向き合う。
恐れが彼女の頭を襲うが、同時に何か引っ張る力も感じていた。

直子は思い切って戸を叩いてみる。
「開けて!」と叫ぶが、声は虚しく響く。
彼女の心には、その戸が開かない理由はどこかに隠されていると思った。
恐怖と疑念の中で、直子は思いを巡らせる。
あの声、あの不気味な感覚…それは、何かが彼女に対して警告を発していたのかもしれない。

その時、家の奥から一本の手が伸びてきたように感じた。
直子はその手の正体を確かめたい一心で、心の中で葛藤した。
「私が試されているのか?」と、彼女は思った。
開かぬ戸を前にした直子は、心の奥底で「解かれないまま、終わってしまうのは嫌だ」と願った。

引き寄せられるように、直子はその戸に身体を寄せ、力を込めて再度引こうとした。
戸には何か重いものがかかっているかのように感じられ、無理に引くことで彼女の心に圧迫感が生じた。
しかし、彼女はその圧迫感を乗り越え、「解決しなくてはならない。消えた友人たちを、彼らと共に」と誓った。

すると、戸の隙間から微かな光が漏れ始め、直子は急に勇気を振り絞った。
光に向けて手を伸ばすと、彼女の心の中にあった恐れが溶けていくのを感じた。
次の瞬間、彼女は戸を押し開き、まぶしい光の中へと飛び込んだ。

目を開けると、彼女は元の廊下に立ち、周囲を見渡すと友人たちが彼女の周りに集まっていた。
しかし、彼らの表情はみんな不安そうで、何かを感じ取っている様子だった。
「おかえり、直子」と一人の友人がつぶやく。
代わりに直子は、「何だったの、あの戸は?」と言った。
しかし、誰も答えられなかった。

不気味な停滞を感じた直子は、あの戸には今後触れるべきではないと心に誓った。
そして、その戸の存在と、消えかけた友人たちの恐れを胸に秘めながら、彼女はその日を忘れないことにした。

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