昔、ある小さな村に、茂一という若者が住んでいました。
茂一は、村の外れにある古びた神社の管理を任されており、神社が持つ神秘的な雰囲気に魅了される日々を送っていました。
しかし、彼には一つの秘密がありました。
それは、神社に隠された闇の存在についての知識です。
その神社の裏には、開かずの扉がありました。
《開》という字が一文字、扉の表面に刻まれていました。
村の古老たちは口を揃えてこの扉について語りました。
「開けてはいけない。あの扉の向こうには、異なる次元の世界が広がっている。そして、そこからは決して戻れない」というのです。
ある日、茂一は村の歴史を知るために本を読み漁っていました。
古びた本の中に、偶然その扉についての記述を見つけました。
「この扉を開ける者は、その魂を奪われる」という内容で、茂一の心に不安が走りました。
だが、同時に好奇心が湧き上がったのです。
「なぜ、こんな扉が存在するのか? どんな世界が広がっているのか?」
その夜、全てが静まり返った頃、茂一は神社へと足を運びました。
真っ暗な境内に月明かりだけが照らす中、扉の前に立ち尽くします。
自らの心臓の鼓動が、周囲の静けさの中で大音量になっているように感じました。
恐怖と興奮が入り混じり、彼は思わず扉に手を伸ばしました。
ゆっくりとした動作で、扉の隙間を押し広げると、冷たい風が彼の肌を撫でました。
そして、その瞬間、茂一は異次元の世界に引きずり込まれました。
目の前に広がっていたのは、見たこともない風景でした。
色とりどりの奇怪な生物たちが彼を見つめ、異様な音が空気中に漂っていました。
茂一は、恐怖に駆られたまま逃げ出そうとしましたが、足が地面に吸い込まれるように動きません。
他の人々の姿が目に入りましたが、彼らは無表情で、まるで自らの意識を失っているかのようでした。
茂一の気持ちは焦りへと変わり、彼は周囲で囁く声に耳を傾けました。
「開けてはいけない、開けてしまった者は…」
彼は思わず振り返りましたが、背後には彼が来た道は消えつつありました。
不安に胸が締め付けられ、恐れを抱えながら、彼は何とかその場を離れようと必死に進みました。
しかし、進もうとすればする程、彼の身体は衰弱していくのを感じました。
奇怪な生物たちが彼に近づいてきます。
その目は、まるで彼を捕らえようとするかのように光り輝いていました。
「茂一、ここはあなたの場所だ。開いてしまったのだから、戻ることはできない」と囁く声が周囲から響きます。
彼の心は絶望で満ち溢れ、もう逃げることはできないと悟りました。
体は疲れ果て、動くことができません。
まるで彼自身がその場に留められ、異空間に存在することを運命づけられてしまったかのようでした。
思わず声を上げようとしましたが、その瞬間、激しい頭痛が襲い、彼の意識が途切れていきました。
次の瞬間、目を覚ますと、彼は旧神社の前に立っていました。
しかし、その世界のことは何も覚えていなかったのです。
ただ一つ、響き渡る声しか脳裏に残りませんでした。
「開けてはいけない、ここへは決して戻ってはいけない…。引きずり込まれたその先に、あなたの体はもはや存在しないのだから…」
茂一は、異次元での出来事を忘れたかのように日常へと戻りましたが、彼の体のどこかには、その異なる存在が潜んでいるような感覚がありました。
そして、神社の扉は依然として静かに閉ざされたままで、誰もがその恐ろしさを知っていました。