ある静かな夜、佐藤は友人たちと一緒に肝試しをすることに決めた。
肝試しの舞台は、地元で有名な閉じ込められた廃屋だった。
そこには悪い噂が絶えず、何かがそこに棲んでいるという話が広がっていたが、若者たちはその興味本位から訪れることにした。
佐藤と彼の友人、田中、鈴木、そして中村は、懐中電灯とスマートフォンを片手に、夜の廃屋へと足を踏み入れた。
扉が軋む音が響き渡り、無数の蜘蛛の巣が彼らの進行を妨げた。
廃屋の中は薄暗く、塵の匂いが充満していたが、彼らは興奮から不安感を忘れ、さらに奥へと進んでいった。
屋内は静まり返り、不気味な空気が漂っていた。
何もない部屋が続く中、やがて、かすかな声が聞こえ始めた。
それは、弱々しく、誰かが助けを求めるような声だった。
佐藤は友人たちに耳をすませるよう言った。
その声は、彼らの心の不安をさらに掻き立てた。
「あれは、誰かいるのか?」と田中が言ったが、仲間たちは恐れに圧倒されていた。
「行ってみよう!」と鈴木が提案した。
彼らは反対する中村を無理やり引き連れ、声の正体を確かめに向かった。
壁に沿って進むと、彼らは一つの扉を見つけた。
その向こうから、先ほどの声が確かに聞こえてくる。
ドアを開けると、そこには何もない真っ暗な部屋が広がっていた。
「おい、何もないじゃないか」と鈴木は言った。
しかし、声は確かにそこから発されていた。
友人たちは互いに目を合わせ、思わず後ずさりした。
すると、その時、廃屋全体が震えた。
急に電気が消え、身動きが取れなくなった。
「何が起きたんだ?」と中村がパニックになった。
次の瞬間、彼らは何かが近づいてくるのを感じた。
冷たい風が吹き、心臓が高鳴った。
佐藤は懐中電灯を手に、周囲を照らしながら声の正体を探そうとした。
そこに現れたのは、顔の見えない影だった。
薄暗い中で、その影は次第に形を成し、目も口もない人間の姿をしていた。
声はさらなる悲鳴に変わり、影は彼らに向かって伸びてきた。
「私を助けて…」その声は、仲間たちの心に恐怖を植え付けた。
「逃げよう!」と佐藤が叫び、彼らは廃屋の出口へと向かって走った。
しかし、ドアは閉じていて開かない。
悪意を持ったその影が一層迫り、友人の一人、鈴木が影に呑まれるように消えてしまった。
「鈴木!」中村は涙を流しながら叫んだが、もう手遅れだった。
彼らは絶望的な状況から逃れようと必死だった。
何かが彼らを追ってきている。
中村は足元の床が崩れ、パニックになりながらただ進むことしかできなかった。
友人たちの声は次第に遠ざかり、影の声のみが響く。
「あなたたちも、私の仲間になって…」その言葉が響くとともに、周囲は急速に暗くなっていった。
佐藤は最後の力を振り絞り、突如目の前に開いた小さな窓へと飛び込んだ。
廃屋から外に飛び出したとき、彼は振り返った。
そこには既に廃屋は静かに佇んでいるだけで、仲間の姿はどこにも見当たらなかった。
鈴木やその他の仲間たちは、影に呑まれ、もう帰ることはできない。
悪に魅了された廃屋は静かにその扉を閉じ、次の「肝試し」を待っていた。
佐藤はショックを受けながらも、もう二度とこの場所には近づかないことを誓った。
しかし、彼の心の奥には、友人たちを失った痛みが深く刻まれ、そしてその痛みがいつまでも忘れられることはなかった。