村の片隅にある古びた神社。
不思議と人が寄り付かないその場所には、誰もが恐れる声がささやかれていた。
最期の祭りから数十年、神社は時の流れに飲まれ、朽ち果てていくばかりだった。
しかし、一人の若者、浩一はその神社に興味を抱いた。
彼は村の伝説に惹かれ、真相を確かめるために足を運ぶことにしたのだ。
浩一は夜になってから神社へ向かった。
月明かりが照らす神社の境内は静寂に包まれ、どこか異様な雰囲気が漂っていた。
特に本殿へ続く道は草で覆われ、まるで誰も通りたくないと叫んでいるかのように感じた。
それでも浩一は臆することなく、一歩ずつ踏み出し、本殿の扉を開けた。
中に入ると、古い祭壇が薄暗い空間の奥に見えた。
浩一は祭壇を調べ始めたが、その時、突然耳元で囁くような声が聞こえた。
「助けて…」その声はどこから来るのかわからず、彼の心臓は一瞬、凍りついた。
声は続けて、彼に向かって何かを訴えているようだった。
浩一は身を硬くし、周囲を見回したが誰もいない。
彼は何が起こったのか理解できず、声の正体を探ろうと心を決めた。
誰かがここで待っていると感じれば、彼はその声に従って進んでいくことにした。
月明かりが差し込む隙間から、浩一は急に見えるようになった。
彼が進むたびに、声は徐々に明確になり、助けを求める切実な響きが心に響いた。
「早く、私のもとへ…」その声を聞いた瞬間、浩一は自分の心が何かに引き寄せられているのを感じた。
浩一は声の導くままに、神社の奥へ進んでいく。
しかし、声が近づくにつれて、浩一は自分の意志が奪われていくような感覚に襲われた。
振り返りたい衝動が湧くが、他の何かに操られているようで体が思うように動かない。
最奥部に辿り着くと、古びた鏡が目に入った。
そこには浮かび上がる映像があった。
かつてこの神社で祭られていた神々の姿。
だが、その中に見覚えのある顔が映し出された。
それは浩一の幼なじみ、亮だった。
彼の顔は恐怖に染まり、助けを求める目が浩一を見つめている。
「浩一、逃げろ…」その声は浩一の背筋を凍りつかせた。
彼は自分の知っている亮の声だと確信した。
だが、何故亮がここに?浩一は混乱し、何が起ころうとしているのか理解できなかった。
静寂に包まれた空間で、亮は鏡越しに手を伸ばし、必死に助けを求め続けた。
しかし声は次第に消えかけ、浩一の心には不安が広がった。
「破れ、私を破ってしまえ!」その瞬間、浩一は恐怖のあまり、自らの手で鏡を割った。
ガラスが粉々になり、崩れた鏡の向こう側から薄明かりが漏れ出した。
浩一はことで破壊を行ったことを少しだけ後悔したが、亮の声が再び響き渡った。
「ありがとう、浩一…でももう遅い…。」
浩一は混乱と焦りの中で、連れ去られるように神社の外へと引きずり出されていた。
彼の目の前には暗闇が広がり、耳に入る音は消え、視界がぼやけていく。
「守るべき者を助ける代償は大きい…」まるで神社の声が彼に語りかけているようだった。
浩一は気を失った。
気が付くと、神社の前にいた。
周囲には静寂が戻り、何事があったのかは全く思い出せなかった。
ただ一つわかるのは、もう二度とあの場所には近づかないと心に固く誓ったことだった。
村に戻ると、全てが普通のように見えたが、浩一の心には、いつまでも響き続ける亮の声が残されていた。