「鏡の向こうの約束」

子供たちの夜の遊び場として知られる廃校。
都会の喧騒から離れたその場所は、昼間の姿とは異なり、暗く静まり返った幻影のようだった。
特に月が薄曇りの夜は、不気味な雰囲気に包まれ、誰もが前を通ることさえ躊躇するほどだった。
しかし、好奇心旺盛な小学生の健太は、この廃校に仲間たちとともに立ち入ることを決めた。

「大丈夫、誰もいないって」と仲間の翔が言った。
彼は少し勇敢な性格で、時には無鉄砲なところもあった。
健太はそんな翔に影響され、その場にいる仲間たちを鼓舞するように笑顔を見せた。
彼らは、校舎の一角に見える小さな窓の影からひたひたと忍び込むことにした。

中に入ると、空気は生温かく、かすかなカビの香りが漂っていた。
健太は懐中電灯を持ち、壁にかかれたかすれた文字を照らし出した。
「ここに来ないで」という警告のように見えるそれが、彼の心に不安を植え付けた。
仲間たちも同様に気まずい思いを抱えていたが、翔は「もっと奥に行こう!」と、更に前を目指すのだった。

薄暗い廊下を進むと、ふとした瞬間、健太は自分の心拍数が速くなるのを感じた。
その時、何かが目に入り、振り向くと、影が見えた。
子供のような小さな影だった。
彼は驚いて細く口を開いた。
「誰かいるの?」しかし、返事はない。
ただ、その影は静かに佇んでいるだけであった。

「ただの風のせいだよ!」と翔は気にも留めないようで、さらなる探検を続けようとしたが、健太は背中に冷たいものを感じていた。
「帰った方がいいんじゃないか…」彼は少し心配になったが、他の仲間が楽しんでいる様子を見て、自分から引き下がるのはみっともないと思い直した。

廊下の突き当たりにたどり着くと、またもや影を見つけた。
今度はハッキリとした姿だった。
それは、白い服を着た女の子の姿をしていたが、目は真っ黒で、どこか無表情だった。
「助けてほしい」という声が耳に響く。

驚く健太たちがその場で立ち尽くすと、女の子は指を指し、何かを訴えるかのように動いた。
そこには古びた扉が存在し、彼らは自然と恐れを抱きつつも好奇心から引き寄せられた。
扉を開けると、真っ暗な部屋が目の前に広がっていた。

部屋の中央には大きな鏡があった。
鏡の中には、怯えた表情の女の子がいた。
その瞬間、健太の心に「計画」が浮かび上がった。
「彼女を救い出そう。この鏡が何かの鍵だ」と心の中で決意した。
仲間たちも賛同し、彼らは女の子に向かって話しかける。

「大丈夫だよ、助けるから!」と翔が叫び、他の仲間も同調した。
しかし、女の子の目はさらに暗くなり、彼女は震えながら部屋から消えた。
焦った健太たちは、急いでその場から出ようとしたが、扉は閉ざされていた。

その時、鏡の中から女の子の声が再び響く。
「覚えていて、私はここにいる」と響き渡り、健太はその言葉に引き込まれるように心を奪われた。
彼らは恐怖に駆られ、必死に扉を叩いて助けを求めるが、部屋の中は静寂に包まれ、その声だけが耳鳴りのように響き続けた。

やがて、健太は心の中で女の子に呼びかけた。
「私たちを信じて、私たちはあなたを救う!」と叫んだ。
その瞬間、女の子の姿が再び現れ、彼女は狭間のような微笑みを見せて、小さく頷いた。
すると部屋が明るくなり、扉がゆっくりと開いた。

彼らはその光景に驚きながらも急いで廊下を駆け抜け、一緒にその場を後にした。
外に出た時、背後から子供の声が聞こえた。
「ありがとう、覚えていてくれて」と、気配が遠のいていくのを感じた。

健太たちはそれ以降、廃校に近づくことはなかった。
しかし心の奥には、あの女の子の記憶が消えずに刻まれていた。
彼らはただの恐怖ではなく、救いの物語を体験したのだと知ったのだった。
その夜の出来事が、彼らの心に深く留まり、廃校の物語として語り継がれていった。

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