「鏡の向こうの少女」

薄暗く静まり返った校舎の中で、ひときわ目立つのは古びた宮のような建物だった。
マという名の女子生徒は、学校の友人たちから伝わる噂に興味を持っていた。
校内に存在するその宮は、誰も近づくことを恐れ、長年放置されたままだった。
しかし、マは好奇心から、真相を確かめるため、そこに向かうことを決意した。

彼女の背後には、友人たちがいるはずだったが、恐れる彼らは早々に引き返してしまった。
マは一人、一歩一歩宮の方へと進んでいく。
周囲の空気は重く、まるで彼女の足取りを止めようとするかのように、抵抗を感じさせた。
それでも、彼女は心の奥で抱いていた不安感を振り払いつつ、歩を進めた。

宮の扉は古びていて、少し力を入れるとギーッという音を立てて開いた。
中に入ると、空気はひんやりと冷たく、時が止まったように静まり返っていた。
薄暗い空間の中、壁には奇妙な絵が描かれており、それらはまるで彼女を見つめ返しているかのようだった。

マは、奥のほうから微かな声を耳にした。
「ここに、誰が来たの?」その声は低く、不気味に響いた。
驚きと恐怖が彼女の体を駆け巡ったが、振り返る勇気はなかった。
声の主を見つけ出すことができず、不安が募る。

そのとき、マは床にあった古い鏡に目を奪われた。
鏡の中には、彼女自身ではなく、別の少女が映っていた。
その少女は、まるで彼女の望みを叶えるかのように微笑んでいたが、その目はどこか冷たく、何かを秘めているようだった。
少女の姿は徐々に明瞭になり、彼女はマに向かって手を差し伸べた。

「私と一緒にここに住みませんか?」その言葉は、マの心の奥に潜む孤独に響いた。
彼女は、いつも周りに友人がいながらも、心の中ではどこか孤独を感じていたのだ。
少女はその願望を知っているかのように、引き寄せてくる。

「あなたは、私をもう一度呼び起こしてしまったのか。望んでいたのは、私の存在だったのね。」少女はその言葉を囁きながら、徐々にその姿が変わり始め、不気味さが増していく。
声も次第にかすれ、マの頭の中に澱んだ思いが広がっていく。

「あなたの望みはいつも悲劇を伴う。私を求めることには、必ず意味があるのよ。」その瞬間、マは恐怖に包まれた。
自分が何を招いてしまったのか、思い知らせるような冷たい感覚が全身を貫いた。

彼女は恐怖から逃れようとしたが、周りには出口が見当たらない。
胡乱な光の中で、少女は微笑む。
マはついに決意を固め、叫んだ。
「お願い、出て行って! もう一度戻ってくることはできないと教えて!」

その叫びが響くと、鏡は揺れ、少女の表情が変わった。
瞬間、宮の中に鋭い冷気が渦巻き、彼女の心に実体をもつ恐怖が迫る。
少女は、「では、私も少しだけ望みを叶えてあげよう」と言い放った。

マはその瞬間、黒い影に包まれ、息苦しさが彼女の全身を締め付ける。
しかし、それと同時に背後から優しい光が差し込んだ。
彼女は自分が本当に望んでいるものは何かを思い出した。
孤独ではなく、繋がりだった。

「お願い、光を! 本当に私が望んでいるのは、あなたじゃない!」再び叫ぶと、薄暗い宮の中に、かすかな光が戻ってきた。
その光が黒い影を押しやり、マは一瞬の隙を見て扉へと駆け出した。

逃げるように校舎から外へ飛び出し、再び友人たちの元に戻った彼女は、心に生きた恐怖を抱えながらも、彼らと共にいられることの喜びを噛み締めていた。
しかし、宮の存在は心の奥に不穏な影を落とし続け、彼女の胸には怪の響きだけが残った。

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