夜の静けさが包み込む小さな町の外れに、古びた屋敷があった。
その屋敷は長年放置されていたため、周囲は鬱蒼とした木々に覆われ、住人がいる気配は全くなかった。
しかし、町ではその屋敷にまつわる奇怪な噂がささやかれていた。
ある晩、警察の職務を全うするために新しく着任した若い警官、山田は、その屋敷を調査することにした。
彼は以前から都市伝説や怪談には興味があったため、話の種にでもなると思っていた。
しかし、彼が知らなかったのは、その屋敷が持つ恐怖の影だった。
山田は、懐中電灯を握りしめて屋敷に足を踏み入れた。
ドアはひんやりと冷たく、古びた木の軋み音が響く。
中に入ると、埃にまみれた家具や破れたカーテンが目に飛び込んできた。
彼は無意識に背筋が寒くなるのを感じたが、好奇心に駆られていたため、そのまま進むことにした。
部屋を一つ一つ調べていくと、奇妙な現象が起こり始めた。
第一の部屋では、窓がひとりでに開き、冷たい風が彼の体を撫でた。
次の部屋では、不意に家具が揺れる音が響き、山田は思わず身を引いた。
彼は心の中で不安が広がるのを感じつつも、屋敷の奥へ進む。
そして、ついに屋敷の一番奥の部屋へとたどり着いた。
そこには巨大な鏡が、古い金色の縁に囲まれて立っていた。
山田はその鏡に近づき、自分の姿を映した。
すると、彼の背後に何かが動く気配を感じた。
瞬時に振り向くと、そこには誰もいない。
しかし、鏡の中に映った彼の表情が曇っていることに気づく。
無表情の自分が、何かを訴えかけているように見えた。
その瞬間、鏡の表面が揺らぎ始め、山田は強い不安に襲われた。
彼はすぐに後退しようとしたが、奇妙な引力が彼を引き留めた。
まるで不気味な力が、その場に彼を留めるかのように感じた。
耳元で、「私を助けて…」という囁きが聞こえた。
それは女性の声だった。
山田は恐怖心と好奇心の狭間で揺れ動きながら、再び鏡を見つめた。
すると、鏡の中で彼の姿の隣に、一人の女性の姿が浮かび上がる。
彼女は青白い肌をしており、目は虚ろでどこか異様な雰囲気を纏っていた。
彼女の目が山田を見つめ、彼との接触を求めるように手を伸ばしてきた。
心臓が高鳴り、逃げ出したい衝動が湧き上がるが、彼の体は動かなかった。
「逃げないで…」その声が再び耳に響く。
山田はその声に苦しむ感情を感じ取った。
彼はその女性が何者で、何故このような姿でいるのかを知りたくなった。
「あなたは、誰ですか?」思わず問いかけてしまった。
「ここに囚われているの…私はまだここを離れられない。助けてほしい。」女性の声はさらに悲しげに響く。
山田は彼女の無垢な目に心を揺さぶられた。
彼は彼女を救うために何ができるのかを考え始めるが、すぐに背後に冷たいものを感じた。
まるで何かが背後から彼を取り囲むように迫ってくる。
山田は決心した。
「分かった。助ける方法を探す!」彼は自分の中に湧き上がる勇気を奮い立たせ、再び鏡に視線を固定した。
すると、その瞬間、彼女の姿が急激に揺らぎ、鏡が割れてしまった。
鋭い音に驚き、山田は後方に飛び退いた。
破片の中に浮かぶ彼女の姿が徐々に消えていく中、山田は何かを感じ取り、屋敷から逃げ出した。
外に出ると、朝焼けが差し込んできて、恐怖の夜がようやく終わったことを感じた。
その後、彼は二度とその屋敷には近づかなかったが、耳元にかすかに残る声が忘れられなかった。
「助けて…」という彼女の声は、彼の心の奥深くに刻まれていた。
彼の中には、一つの疑問が残ったままだった。
「あの屋敷には、まだ未知の恐怖が隠されているのだろうか?」