ある静かな午後、高校の放課後の教室。
佐藤亮は、勉強が苦手で成績が伸び悩んでいた。
友人たちが帰った後も、一人で残って教科書を広げていたが、頭の中に教科書の内容が入ってこない。
そんな亮の目に飛び込んできたのは、教室の隅にあった古い鏡だった。
その鏡は、学校が建てられるずっと前から存在していたもので、誰も使わなくなったため、埃にまみれている。
だが、亮はその鏡に何か引かれ、近づいてみることにした。
鏡に映った自分の姿はどこか歪んで見えた。
そして、次の瞬間、彼は鏡の中に小さな影のようなものを目撃した。
それは、まるで鬼のような姿をしており、不気味にこちらを見つめている。
その瞬間、亮は恐怖に襲われて教室を飛び出した。
しかし、どうしても気になり、翌日も同じ時間に教室に戻ることにした。
今回は、友人に付き合ってもらうことにした。
佐々木美香は勇敢で好奇心旺盛な子だったが、彼女も不安そうな表情を浮かべていた。
放課後、教室に二人残ると、鏡の近くで話を始めた。
美香は、「この鏡、何か不気味だね」と言い、亮も同意した。
「でも、何か見てみたい気もする」と言うと、美香は「そんなこと言わないで、怖いよ」と笑いながらも言った。
二人は意を決して鏡の前に立ち、その表面を覗き込んだ。
すると、やはり小さな影が見えた。
そこから「助けて」という声が聞こえたような気がした。
二人は驚き、目を合わせた。
自分たちの耳が正しいのか、ただの幻聴なのか分からなかったが、亮はなんとか「何があったのか聞いてみよう」と進んだ。
亮が鏡の中に叫ぶと、声は「私をここから出してほしい」と返ってきた。
驚く美香は「そんなことしたら危ないよ」と言ったが、亮は不思議とその声に引き寄せられていくのを感じた。
彼は「どうやって出てくるの?」と聞くと、「身代わりが必要だ」と返答があった。
その一瞬に、教室の空気が変わった。
鏡の中の影が次第に大きくなり、まるで鬼の姿がそこに現れようとしているようだった。
亮は立ち尽くすことしかできなかった。
恐怖と好奇心の狭間で揺れ動く心の中で、鬼は続けた。
「私が外に出るには、あなたの体が必要だ。約束だ。」
美香は慌てて亮の腕を掴み、「逃げよう!」と叫んだ。
しかし、亮はその鬼の言葉を耳にし、彼の心の中で何かが変わり始めていた。
彼はその体が持つ力に魅かれ、自らの身を鬼と入れ替わることで、新たな力を得ることを決意する。
「いいよ、私が身代わりになる。だけど、その代わり、友達は傷つけないで。」自らの意志を示した亮は、鏡に手をかざした。
やがて、鬼は彼の身体を蝕み、その瞬間、亮の心の中で鬼の存在が芽生えた。
美香はその光景を目の当たりにし、絶望の中で後ろに下がった。
教室の明かりがふわりと消え、闇が支配する中で、亮の姿が少しずつ変わり始めた。
鬼の力を宿した彼は、今までの自分とはまったく異なる存在になってしまった。
「もう遅いよ、私を放っておけない。」亮——いや、鬼となった存在は笑った。
美香は恐怖で震え上がり、逃げ出した。
そして、亮の身体には新たな影が宿り、今後はその影が人々の恐怖の対象となることだろう。
学校の壁の中で蠢く影のように、彼はもはやただの学生ではなく、鬼として人間の身を持ちながら、永遠に苦悩することになるのだった。