村の外れに佇む古びた神社は、長い間誰も訪れない場所となっていた。
木々に覆われ、神社の社殿は崩れかけており、かつてここで行われた祭りの名残は、今や静寂の中に埋もれていた。
この神社には、古くから語り継がれる怪談があった。
その話によれば、戦国時代、ある武士が敵に攻め込まれた際、神社に謝罪し、祈りを捧げると、彼の前に現れた神霊が、彼を戦場から守る代わりに重い代償を求めたという。
一人の青年、健太はこの話を聞きつけ、興味をそそられた。
彼は、冒険心と好奇心を胸に、神社に足を運ぶことにした。
夜が迫る中、神社の前に立ち、ざわめく虫の声が彼の耳を打つ。
心の中で過去の話を思い描きながら、健太は神社の扉を開けて中に入った。
薄暗い社殿の中、健太は無造作に並べられた古い神具を目にした。
何かが彼を引き寄せるように、彼は神具の中央にある木製の鏡に目を奪われた。
鏡の表面はひび割れ、歪な反射を映し出していたが、何か不思議な魅力を放っていた。
彼はその鏡に手をかけ、自分の姿を映そうとした。
その瞬間、彼の目の前に重苦しい空気が沸き起こり、鏡に映った自分の表情が歪み始めた。
暗闇の中から声が聞こえる。
「この世の痛みを背負いし者よ、何を求めてここに来たのか。」恐怖に息を呑みながら、健太は何とか言葉を返した。
「私はただ、この場所の真実を知りたいだけです。」
声はさらに力を増し、「記憶の影を見せてやろう。だが、代償が必要だ。」そう言った瞬間、周囲の空気が変わり、鏡の中に映る景色が切り替わる。
武士たちが戦場でぶつかり合う激しい様子や、戦の悲劇が迫ってくる。
血が飛び散り、叫び声が響く。
健太は目の前の光景に強烈な恐怖を抱いた。
「これが過去の痛みだ。お前もこの戦に巻き込まれるのだ。」その声は再び響く。
健太は混乱しながらも気を取り直し、何とかその場から逃げ出そうとしたが、足が動かない。
力が抜けていく感覚に、彼は絶望し始めた。
「戦の記憶を受け入れよ。お前は選ばれし者。過去を知り、未来を変えるのだ。」声はますます近づき、健太は反発するように叫んだ。
「私は何も望んでいない。これ以上の痛みは耐えられない!」
すると、鏡の中で彼はふと自分の姿を見た。
そこには、かつての武士の影が重なり合っていた。
彼は次第に、自分の心の奥に秘めていた戦う意志が芽生えていることに気づく。
「ああ、私も戦の中に生き続ける存在なのか。」彼はその思いに苦悩しながら、鏡の中の武士と目が合った。
「お前と私は一つだ。何も恐れることはない。共にこの苦しみを味わおう。」その言葉に、健太の心が震える。
しかし彼はその瞬間、何かが切り替わるのを感じた。
戦の記憶、その痛みを背負った者として、彼は脱出しようとする。
しかし、鏡の裏側から紐帯するように流れ込む意識に抵抗できなかった。
次第に彼は意識を失い、気がつくと背後には静けさが広がっていた。
鏡は元のひび割れた姿のまま変わらず、彼はそのまま神社の外に出た。
しかし、彼の心には戦の記憶が深く刻まれていた。
今や彼もまた、過去を背負った者の仲間となり、神社の怪談の一部として生き続けることが運命づけられていた。
夜の闇が彼を包み込み、健太はその影の中に消えていった。