夜が深まり、霧が立ち込める静かな村で、佐藤美香はひとり、古びた神社の境内に立っていた。
彼女は最近、悪夢に悩まされていた。
夢の中では必ず、見知らぬ女性が現れ、彼女をじっと見つめている。
そして、その女性の視線を感じるたびに、心に不気味な恐怖が宿った。
ある晩、美香は友人たちと共に肝試しに神社を訪れた。
友人たちは彼女の悪夢の話を聞き、興味本位で神社の奥へ進んでいく。
しかし、美香は何かに引かれるように、ひとりで神社の祭壇の方へ足を運んだ。
そこに供えられていた古い木の箱が、妙に彼女の注意を引いた。
箱を開けると、中には赤色の布に包まれた小さな鏡があった。
興味を持った美香は、鏡を取り出し、自分の姿を映そうとした。
その瞬間、彼女の目の前に、夢の中で見たあの女性が映り込んだのだ。
驚きすぎた美香は倒れそうになりながらも、必死で視線を合わせた。
「あなたが…私に何を望んでいるの?」彼女は恐る恐る声をかけた。
しかし、女性はただじっと美香の心を見透かすように見つめ返すばかりだった。
美香は恐怖を感じた。
まるで彼女の心の奥底を探られているかのようだった。
そんな瞬間、幻想的な風が吹き抜け、神社全体が微かに揺れた。
「逃げなさい…」女性の心の中から響くような声が、美香の耳に届いた。
彼女はその声に従うことにしたが、足は一歩も動かない。
代わりに、胸の奥に潜む不安が増すばかりだった。
周囲の風景が歪んで見え、神社の境内がまるで心の中の迷路のように感じられた。
美香はその状態に耐えられなくなり、急いで神社の外に飛び出した。
ところが、村は全くの静寂に包まれていた。
友人たちも、彼女を待っている気配はどこにもなかった。
恐怖が心を締め付け、彼女は再び神社の中に戻ることに躊躇の念を感じた。
だが、彼女の心は冷静さを失い、結局その神社へ引き戻される。
再び鏡の前に立つと、女性の姿が始めから見えなかったかのように映り込んでいた。
状況が呪いのように思えてきた。
恐れが彼女の心を圧迫し、再び声が響いた。
「私を見つけて…」
美香は凍りついたようにその場に立ち尽くし、思考が深い霧に覆われていく。
この女性が何者で、何を求めているのか、一切想像がつかなかった。
夢と現実の境界が曖昧になり、一体彼女の心の中に何が潜んでいるのか、全てが闇の中へ飲み込まれていくように感じた。
混乱の中、彼女は再び鏡に触れた。
その瞬間、角度がズレ、女性の赤い目が彼女に向けられる。
冷たく、無機質な視線が彼女の心を突き刺す。
「もう遅い…逃げられない…」その言葉が心の中にひたひたと浸透してくる。
美香は恐れに苛まれた。
その後、夢の中で見た女性の姿は消え去り、美香は自分だけの孤独な存在を感じるようになった。
神社を後にした彼女は、もう二度と友人たちと会うことができなかった。
彼女の心には、永遠に失われた別れの感覚が深く刻まれてしまっていた。
村は静けさの中で彼女を包み込み、星空が広がる夜空の下、美香はただひとり、自らの影と向き合うしかなかった。
そして、あの鏡が彼女を見つめ続けているような気配を感じながら、心の奥底に拡がる恐怖を抱えて生き続ける運命を選ぶことになった。