ある静まり返った夜、大学生の佐藤悠斗は友人たちと心霊スポットに肝試しに行くことを決めた。
その場所は、廃墟となった施設の近くにある、今は誰も近寄らない古びた住宅だった。
彼にとって、その場所は単なる話のネタであり、恐怖を味わうことで仲間との絆を深める機会だと思っていた。
住宅の裏手には、大きな木々に覆われた小道があった。
悠斗たちは不気味な静けさに包まれたその小道を進むにつれ、次第に恐怖が彼の胸を締めつけていった。
仲間たちが冗談を言い合っている声が聞こえるが、その笑い声が耳に入るたびに彼の心臓は早鐘を打つ。
彼はきっと何もない、ただの噂だと自分に言い聞かせる。
住宅に到着すると、古びた扉がわずかに開いていた。
誰もいないはずなのに、何かにつられて玄関を押し開け、中に入ることにした。
中は薄暗く、埃っぽい空気が充満している。
彼らは懐中電灯を持っていたが、その光が照らし出すのは彼らの表情だけで、方法は全く見えない。
悠斗は薄暗い廊下に足を踏み入れ、恐怖を感じながらも仲間たちを引き連れて進む。
「ここに罠があるんじゃないか？」と、一人の友人が冗談で言った。
彼らはお互いに笑いあったが、悠斗の心には何か不安がよぎる。
「罠」とは、単なる言葉ではなく、何かの暗示のように感じられたからだ。
進むに連れて、廃墟の奥にある小さな部屋にたどり着いた。
その部屋は、かつての住人のものと思われる家具がそのまま残されていた。
ふと、悠斗の目に留まったのは、壁にかけられた古びた鏡。
彼はその場に立ち尽くし、鏡の中に映る自分自身を見つめた。
ただ、彼の後ろには友人たちの姿が映っていなかった。
幽霊のように、彼だけがその場に立っている感じがした。
その瞬間、寒気が背中を走り、彼は無意識に後ろを振り向いた。
友人たちがいないことに気づいた悠斗は、 panicを感じ始めた。
「みんな！どこに行ったんだ？」彼は大声で呼びかけたが、返事はない。
恐怖が彼の心を締め付け、立ち尽くす。
彼はもう一度鏡に目をやった。
今度は、背後に小さな影が映っていることに気づく。
その影は、まるで彼を見つめ返しているかのようだった。
混乱し、悠斗は再び後ろを振り返ったが、そこには何もない。
ただの空間だ。
しかし、彼は心に何かが取り憑いている感覚を抱いていた。
恐れを抱えたまま、彼は廊下に戻ろうとしたが、足は動かない。
まるで誰かが彼を引き止めているかのようだ。
悠斗は、心の奥で「この家には何かがある」と思い至った。
そして、その瞬間、「済」まない過去の声が耳元でささやかれた。
まるで彼自身が「罠」にかかったかのようだ。
彼は最後の力をふりしぼり、家を出るために走り出したが、廊下の終わりに立つ同じ影が、冷たく微笑んでいるように見えた。
それを見た瞬間、デジャヴのように思い出したのは、自分が最初に言った言葉。
「ここに罠がある」。
悠斗はその時、自分の力ではどうしようもないことを理解した。
「己」では避けられない運命が、今自分を捕らえようとしている。
家を出ることができず、恐怖に圧倒された彼は、もう一度だけ、声を上げた。
「助けて！」
だが、彼の叫び声は響き渡ることなく、静寂の中に消えた。
誰も彼の声を聞くことはなかった。
彼は、まるで過去の誰かのように、ただそこに取り残されてしまったのだ。
幽霊が住み着く家は、次の罠にかかる者を待っているのかもしれない。
