「鏡の中の愛」

彼女の名前は美咲。
普通の大学生で、友人との楽しい日々を過ごしていた。
しかし、ある日の遊び疲れで帰る途中、彼女は古びた鏡を見つけた。
街外れの骨董品店の片隅にひっそりと置かれていたそれは、まるで時を忘れたような美しさを放っていた。

美咲はその鏡に強く引き寄せられ、思わず手を伸ばした。
鏡は冷たく、触れた瞬間に不思議な感覚が彼女の体を駆け巡った。
しかし、その美しさの裏には何か不可思議なものが潜んでいるのではないかと、彼女は一瞬嫌な予感を覚えた。

それでも、好奇心に駆られた美咲はその鏡を購入し、部屋に持ち帰った。
両親が留守の日、一人になった美咲は鏡の前に立った。
すると、何かが彼女の心をざわつかせる。
鏡の中には何の映像も映し出されていなかったが、彼女はふとした瞬間、そこに映り込むはずのないもう一つの影を感じた。

その影は徐々に鮮明になり、彼女の視線を捉えた。
なんと、その鏡の奥には自分が知らない別の世界が広がっていた。
そこには、美咲の容姿に似た一人の女性が立ち、彼女を見つめ返している。
彼女は「地」と名乗った。
その名は美咲にとって見知らぬものであった。

「この鏡は私とあなたを繋ぐ存在なの。私の愛が、この世界を支配しているのよ。」地は語りかけた。
美咲は驚きつつも、地の言葉に引き込まれていった。
地は愛を語り、彼女が孤独であることを理解していた。
自分もまた、他者との関係を築けずに悪循環に陥っていたのだ。

しかし、次第に美咲は地の存在に不安を抱くようになった。
何度か彼女と交信する中で、その愛情が歪んでいることに気づく。
「あなたの心は私の中で永遠に生き続ける」と言った地は、彼女を手に入れようとしていた。
美咲は自分が彼女の心の中に取り込まれてしまうのではないかという恐怖を抱えた。

日を追うごとに、彼女は鏡の前に立つことが増えていった。
そして、次第に日常生活に支障をきたすようになっていた。
友達との関係も疎遠になり、彼女の心には地の声だけが響くようになった。
「私のことを忘れないで。二人は一つなのだから。」

ある晩、美咲は決心をした。
地との関係を断ち切るため、その鏡を破壊することを決意した。
しかし、鏡に近づくほどに、地の声が耳元で囁く。
「壊さないで。あなたは私を必要としている。」

美咲は恐怖と混乱の中で葛藤した。
その瞬間、地の影が出現し、彼女を引き寄せる力が働いた。
美咲は逃げようとしたが、無意識に鏡の中へと引き込まれてしまった。

その後、美咲の姿は誰も知らない場所に消えてしまった。
彼女は鏡の世界で地と共に存在することになったが、その愛は束縛として彼女の心を蝕んでいた。
今でも、彼女の声は誰かを呼ぶかのように波紋のように響き続けている。

時折、鏡の中で彼女の姿を見かけた者は、ただの鏡だと思うだろう。
しかしその裏には、かつて普通の女の子であった美咲と、彼女を愛するために囚われた地の物語が静かに息を潜めている。
彼女たちの境遇は、今もなお悲しみと愛の狭間で揺れ動いているのだった。

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