彼女の名前は佳奈。
佳奈は大学のサークルの仲間と、北海道のある山奥にある廃墟を訪れることになった。
サークルの活動として心霊スポットに行くことが流行っているのだ。
仲間たちはその廃墟が昔、何か恐ろしい事件があった場所だと聞き、その噂を確かめるためにやって来た。
廃墟にたどり着くと、そこは時間が止まったような場所だった。
ひび割れた壁、崩れかけた天井。
辺りは静まり返り、冷たい風が吹き抜ける。
その冷気が佳奈の背筋をぞくぞくさせた。
仲間たちが話している声は小さく、彼女の心に緊張感が高まった。
「何もないよ、こんなの。」と、友人の大輝が大声で言う。
佳奈は内心、何か起こるのではないかと不安を感じていた。
しかし、彼女は自分が怖がっていることを仲間に知られたくなかったので、気を強く持つことにした。
廃墟の奥を探検するうちに、彼女たちは不気味な間取りの部屋に入った。
そこには古びた鏡が一つ、壁にかけられていた。
皆がその鏡を見ると、突然、佳奈の周りの空気が変わった。
鏡の中に映る自分たちの姿が、次第に歪んでいくのだ。
最初は何も気にしなかったが、鏡が輝くにつれて、何か異様なものが映り込んできた。
彼女たちの後ろ姿が、まるで別の世界から来たように見えたのだ。
「これ、なんかおかしいよ……。」と、彼女はつぶやく。
周りの私たちもその異様さを感じ、少しずつ不安が広がっていった。
しかし、逆に好奇心が勝り、鏡の中の異様な映像を観察することにした。
すると、彼女たちの映像の中に、一人の人影が見えた。
それは明らかに誰かの姿だったが、その顔は見えない。
恐怖が瞬時に彼女の心を支配する。
「やっぱりここはまずいかもしれない。」そう思った瞬間、佳奈は後ろの仲間たちに言った。
「戻ろう、もうここはやめよう。」
しかし、仲間の一人、菜々が「まだ何か面白いことが起きそうだよ!」と笑いながら反対する。
佳奈は心の中で葛藤したが、彼女の言葉はしかし、他の仲間をも引き留める力があった。
その瞬間、鏡の中の人影が一瞬笑ったように見えた。
「やっぱり、何かおかしい……。」そう心に思った佳奈は、もう一度鏡に目をやると、今度はその人影が明確に形を成していく。
何者かのような、その姿は彼女たちをじっと見つめていた。
その視線が伝わる瞬間、佳奈は恐怖で体が硬直した。
そして、突然、鏡が割れた。
シャッと音を立ててガラスが崩れ、仲間たちの悲鳴が響く。
その瞬間、何かが鏡から出てきそうな気配を感じた。
佳奈は一歩後ずさりし、彼女の直感が、もう逃げるべきだと叫び続けた。
「逃げよう!早く、ここから出よう!」
彼女たちはパニックに陥り、一斉に廃墟の外へと駆け出した。
しかし、出口に向かう道は、まるで迷宮のように変わってしまった。
どこへ行っても、同じ部屋に戻ってしまうのだ。
心臓が高鳴る中、佳奈は自分の心を落ち着けようと必死だった。
仲間たちも焦り、どんどん混乱していく。
「ちょっと待って!大丈夫、私が道を探すから!」佳奈が叫んでも、誰も彼女の言葉を聞いていないかのようだった。
一瞬の安堵を感じた時、背後から冷たい風が吹き抜け、次の瞬間には奇妙な力が彼女を引き留めていた。
他の仲間たちは次々と姿を消していった。
佳奈は必死になって自分の身を守ろうとしたが、恐怖に押しつぶされるように、彼女の意識も次第に薄れていった。
最終的に、佳奈は一人ぼっちになった。
そして、彼女の目の前に人影が立っているのを見つけた。
それは、鏡の中に映っていたあの姿。
彼女は、その目を合わせた瞬間に、自分が逃げられないことを悟った。
暗闇が彼女を包み込んでいったその時、彼女の意識は完全に消えてしまった。
この後、佳奈たちが行った廃墟は、誰も近寄らなくなったという。
あの鏡の中には、未だに彼女たちの姿が映り続けているのだ。
何かを求め、彼女たちを待っているかのように。
そうささやかれる声が、今もどこかで響いている。