広がる草原の向こうに建つ、一軒の洋館。
その洋館は、かつては華やかな社交場として名を馳せていた。
明治時代の終わり頃に建てられ、色とりどりのバラが咲き乱れる庭には、訪れる人々の笑い声が絶えなかった。
しかし、時が経つにつれ、人々はこの館から遠ざかり、やがて放置されるようになった。
その理由は、「師」と呼ばれる存在があったからだった。
師とは、館の主を名乗る一人の女性であった。
彼女は美しく、気品に満ちていて、周囲から尊敬されていた。
しかし、彼女は不気味な力を持ち、人々の怯えは次第に恐怖に変わり、誰も彼女に近づくことを躊躇った。
その彼女の力は、噂によってますます増していった。
彼女は自らの 瞳を通じて他人の「思い」を感じ取ることができ、特に「償い」の念を抱く者を特に好むと言われていたのだ。
ある晩、若き大学生の翔太は、仲間たちの肝試しの誘いを受けて洋館へ向かうことにした。
彼は何も信じていなかったが、その好奇心から一度は足を運ばざるを得なかった。
中に入ると、空気がひんやりとしており、古びた家具やほこりの積もった壁が彼を迎えた。
仲間たちの声が遠くかすんで聞こえ、横たわる静けさが不気味な雰囲気を醸し出していた。
翔太が奥の部屋に足を踏み入れた瞬間、驚くほどの寒気が彼を襲った。
壁には大きな鏡が飾られていて、その中には彼の姿が映っていた。
しかし、よく見ると、鏡の背後に天然の光を失ったような暗い影が一瞬映り込んだ。
それを見たとき、翔太の心に疑念が芽生え始めた。
何かがおかしい、何かがここにいる……そう直感したのだ。
その夜の出来事が心に引っかかり、彼はなぜ尊敬されていたはずの師が、今は恐れられているのかを知りたくなった。
調査を進めるうちに、師はかつて多くの人々の「師」として尊敬されても、その実、孤独の中で人々から遠ざけられていたという事実に気づく。
彼女は自らの力で人々を試し、そのために孤独を背負っていたのだ。
その日から、翔太は夢の中で師と会話を交わすようになった。
彼女は、彼に自らの過去を語り始めた。
彼女は多くの生徒を教え、愛し、そして何よりも悲しみに満ちた別れを受け入れられなかった。
その想いが彼女自身を呪い、長い孤独を生んだのだった。
「償い」を求める気持ち。
翔太は、師の心の内にある痛みを理解するようになり、彼女と共鳴し合った。
彼は彼女の力を受け継ぎ、孤独に立ち向かう決意をした。
そして、彼が再び洋館に足を運ぶと、師の姿が彼の目の前に現れた。
彼女は今までにないほど美しい微笑みを浮かべ、丁寧に語りかけてくる。
「私にとって、あなたは初めての弟子です。私の器を受け取ってください。」
翔太は彼女の言葉を受け入れた。
彼の心には、独特の覚悟が生まれた。
彼は、師の代わりに人々との関わりを深め、彼女が試みたかった教育の場を再生するために立ち上がることを決心した。
しかし、その瞬間、彼の周りは急に濃霧に包まれ、気づくと彼は鏡の中に吸い込まれてしまっていた。
数年後、その洋館は再び人々が集う場所になり、翔太の噂は町中に広がっていた。
しかし、彼の姿はどこにも見当たらなかった。
今も洋館には師の影がうっすらと残り、新しい訪問者に囁き続けている。
「償いを求める者よ、さあ、進みなさい」という言葉と共に……。
