深い黒い闇が舎の中を包み込み、静寂が広がっていた。
廊下の壁にかかる古びた鏡は、かつてこの舎で起きた出来事を、今も静かに見守っている。
そこには、数年前にこの場所で行方不明になった少女の伝説があった。
彼女の名は琴美。
ある夜、彼女は一人でこの舎を探検することに決した。
しかし、琴美は戻って来なかった。
その後、舎の周囲では彼女の声が聞こえたり、彼女の姿を見かけたという噂が立った。
特に、廊下の鏡の前では、その存在感が際立っていた。
人々はその鏡を「闇の鏡」と呼び、近づくことを避けるようになった。
その夜、大学生の葵は友人たちと肝試しのためにこの舎を訪れた。
怖い話を持ち寄り、肝試しを楽しむつもりだった。
仲間たちが笑い合う中、葵は「闇の鏡」の噂を耳にし、その存在に興味を抱いた。
周囲が恐る恐る反応する中、彼女はただの噂だと思い、鏡を見に行くことにした。
彼女が廊下を進むにつれ、どんどん暗くなっていく気配を感じた。
頭の中には他の仲間たちの声が響き、彼女の背筋を不安が走る。
しかし、好奇心には勝てず、廊下の突き当たりにそびえ立つ鏡の前に立った。
鏡は冷たく、無表情な面を持っていた。
彼女は鏡を覗き込む。
すると、そこには自分の姿が映っていたが、次の瞬間、その背後に何かがいることに気づいた。
それは、白いワンピースを着た少女、琴美だった。
彼女は静かに微笑んでいたが、その表情はどこか不気味で、不安を煽った。
葵は驚き、すぐに後ろを振り返ったが、誰もいないはずの廊下が静まり返っている。
再び鏡に目を戻すと、琴美は無言で手を伸ばしてきた。
葵の心臓が高鳴り、足がすくむ。
しかし、その時、彼女の心の奥に「孤独」の影を感じた。
琴美の表情は安堵に変わり、何かを訴えかけているようだった。
葵はその瞬間、びっくりするような直感が働く。
「彼女は助けを求めている。」葛藤する中、葵は心の中で決意した。
琴美に手を差し伸べ、彼女の聴くことができるように言葉をかける。
「私、あなたを助けるから。」すると、琴美はさらに手を伸ばし、目が鈴のように輝いた。
しかし、鏡の表面が波揺れ、急に暗闇が彼女らを呑み込んでいく。
葵は恐れと興奮の中で目を閉じた。
そして、目を開けると、自分の目の前にいたのは、白いワンピースの少女と、彼女を囲む不気味な霊たちだった。
周囲は絶望的な暗闇に覆われていた。
「助けて…」という声がささやかれる中、葵はその場から逃げようとしたが、動くことができなかった。
彼女の体はまるで引き寄せられるように、琴美の方へと向かっていく。
琴美の微笑みは一瞬だけ優しさを見せたが、瞬く間にその顔は悲しみに変わった。
「孤独はもう終わらせたい…」その言葉が心の中に響き、葵は自分の存在すら消してしまおうとする恐怖に襲われた。
それでも、彼女は再度決意し、鏡に向かい目を閉じた。
「あなたを忘れない、琴美。」
その瞬間、鏡が一瞬の光を放ち、周囲の暗闇が引き裂かれた。
霊たちは悲しみの中で遠のいていき、琴美は葵を見つめた。
「ありがとう…」
葵は廊下を駆け出した。
振り返ることもできず、恐怖と安堵の感情を抱えながら、舎を飛び出していった。
仲間たちの声が遠くに聞こえた。
葵の心には強く琴美の姿が焼き付き、彼女が求めた「孤独」の影を心に留めながら、彼女は再び明かりのある世界へと歩み出した。