深い森の中に、かつての集落があった。
しかし、その集落は今や誰も住まなくなり、ただ静寂が広がるばかりだった。
名前も知らない村の人々が、いつの間にか姿を消してしまったのだ。
噂では、村には何か恐ろしいものが潜んでいると言われていた。
村に近づく者は、いつの間にか姿を消してしまい、戻ってこないのだ。
ある日、大学生の健太は友人たちと共にその村を訪れることにした。
彼らは興味本位で肝試しをしようと、この禁断の地へと足を踏み入れたのだ。
それは夜のこと。
遠くから聞こえる虫の声が不気味に響く。
月明かりが木々の影を作り出し、恐怖感が次第に高まっていった。
「怖いじゃないか、こんなところに来て!」友人の美咲が言ったが、健太はその言葉を無視して森の奥へと進んだ。
「ほら、何も起こらないって。気にするなよ。」と笑いながら強がる健太。
しかし、彼の心の中には不安が広がっていた。
森の奥に進むと、古びた茅葺き屋根の家が現れた。
そこは誰も近づくことを避ける場所だった。
彼らの興味は増すばかりだった。
「中に入ってみようよ。」健太が提案し、友人たちも渋々納得する。
彼は家の扉を押して開けると、中は暗く湿気を帯びていた。
古い家具が埃をかぶり、かつての生活の面影が残っている。
屋内は静寂に包まれている。
彼らは探索を始めたが、次第に不気味な雰囲気に飲まれていく。
すると、健太はふと廊下の奥にある小さな部屋に目を留めた。
「あそこ、行ってみる?」彼の言葉に、他の友人たちも興味を抱き、後を追った。
小さな部屋には一枚の大きな鏡が置かれていた。
鏡は埃をかぶり、古びた木枠が崩れかけている。
しかし、その鏡には妙な惹きつけられるものがあった。
健太は近づき、自分の姿を映し出した。
だが、次の瞬間、彼の後ろに立っていた友人たちの姿が一瞬消えた。
驚いて振り返るが、誰もいない。
恐れが彼の心を支配する。
「みんな、どこに行った?」健太は大声で叫んだが、返事はない。
再び鏡を見つめると、今度は自分の後ろに何かが映り込んでいるのに気づいた。
それは見知らぬ女性の姿だった。
彼女は透けるような存在で、美しい顔立ちをしていたが、その目は静かに彼を見つめていた。
恐れる間もなく、彼女は笑みを浮かべたかと思うと、急にその顔が歪み、彼の心に恐怖が押し寄せる。
「助けて…」彼女の声が耳に響くと同時に、途端に廊下の奥から冷たい風が吹き抜け、彼はその場から逃げ出そうとした。
しかし、足元がもつれて、転倒してしまった。
さらに風が強くなり、部屋は震えだした。
健太は慌てて這い上がり、再び鏡に目をやった。
鏡の中には、次々と友人たちの名前が浮かび上がってくる。
美咲、直樹、そして他の友人たちの姿が見えなくなり、彼は一人きりになってしまったのだ。
恐怖のあまり、もう一度立ち向かう気力も失せ、彼は震えながら後退していった。
その時、再び女性の姿が鏡に現れた。
彼女は悲しげな表情で問いかけるように、指をさした。
すると、健太は不安ながらも、彼女が示しているものが気になった。
振り向くと、部屋の片隅に古い日記が置かれているのを見つけた。
手元に近づくと、その日記は真っ黒で、泥で覆われていた。
開いてみると、そこにはかつて村に住んでいた人々の苦しみが綴られていた。
彼女の孤独な思い、助けを求める呼びかけが、次第に彼の心を支配した。
「私と一緒にここにいるの?」
その瞬間、彼は気づいた。
彼女は村に囚われ、永遠に解放されることを望んでいるのだ。
彼女の悲しみを理解した健太は、逃げることなどできない、彼女を助けるためにここに立つべきだと決意した。
「君の声が聞こえる、私は君を信じる!」健太は叫び、自分の決意を示した。
すると鏡は揺らぎ、彼女は微笑み、周囲が明るくなった。
次第に友人たちの姿が現れ、彼は彼らを助け出すことができると信じた。
しかし、一瞬の静寂が彼らを包み込み、全てが元の静けさに戻る。
そして、健太は一人、静かに村を後にした。
彼の中には、永遠に失われた村の人々の悲しみを背負って生きていく覚悟があった。