「還る者たちの影」

おどろおどろしいこの話は、都市の喧騒から遠く離れた山奥にある、古びた村から始まる。
この村には、過去に何かしらの悪事があったとの噂がたゆたっていおり、特に夜になると不気味な静寂で包まれると言われている。
実際、村の人々は夜が訪れると、自分の家の中にこもり、決して外に出ない。
そんな村に住むのは、大学生の健太である。

健太は、好奇心が強い性格で、いつも近くの山の奥にある神社を訪れたいと思っていた。
ある日、友人の陽子を誘い、この神社を訪れることにした。
「行ってみるだけだよ、大丈夫だよ」と彼女を納得させて、ふたりは夕暮れ時に神社を目指して出発した。

夜になり、薄暗い林を進むにつれて、周りの空気が次第に重くなっていくのを感じた。
健太は「まあ、怖い話なんてただの噂だろ?」と自分に言い聞かせながら、陽子を先導した。
彼女は少し怯えた様子だったが、健太の言葉に勇気をもらっているように見えた。

神社に到着すると、古びた鳥居がそこに立っていた。
「これがあの神社か…」健太は驚きと恐れが入り混じる感情を抱えながら、慎重に鳥居をくぐった。
すると、その瞬間、周囲の空気が一変した。
まるで時が止まったかのように静まり返り、彼らは気がつかなかったが、村の過去からの何かが忍び寄っていた。

陽子が「健太、なんか寒くない?」と言って体を抱きしめる。
健太も急に冷たい風が肌を刺すことに気づいた。
彼は「ただの風だよ、行こう」と言いながら、神社の奥に進むことにした。
周囲はますます不気味になり、急に健太の心臓が高鳴り始める。

奥まで進むと、何かに導かれるように一つの石碑が目に入った。
そこには文字が彫られていたが、見えづらいため健太は頑張って読もうとした。
すると、陽子が悲鳴を上げた。
「健太、見て!」彼は振り返ると、神社の中央に動いている影があった。
透明で、不気味な姿をした人物が、じっと彼らを見つめている。

その瞬間、周囲の温度が急激に下がり、陽子が悲鳴を上げた。
「健太、逃げよう!」彼女は懸命に彼を引っ張り、二人は神社を飛び出した。
だが、ふたりを待ち受けていたのは、村を支配している“還る者”の正体だった。

村には、かつて悪事を働いた者たちの霊が存在し、子孫を成す者を探していたのだ。
彼らはかつての罪を繰り返させるために、村に迷い込んだ者を誘い、彼らを村に引き込もうとする。
逃げようとするも、どこかで何かに導かれるように動いてしまう。
健太は陽子とともに必死に逃げ、時折振り返るが、背後には彼らの影が見えた。

「この恐怖から逃れなきゃ…」健太が心の中で呟いた時、ふと目の前に明かりが見えた。
それは神社からの道筋であり、彼らは逃げ道を見つけたのかもしれない。
しかし、背後の影はどんどん迫ってきて、彼らの心を締め付ける。

ついに二人は村の外れにたどり着くと、その刹那、健太は振り返った。
彼の心の内に、村の運命を背負っている者たちが映り込んでいた。
彼らに何をしてほしいのか分からなかったが、同時に感じたのは「罪を償うこと」そのものだった。

「どうする?!」陽子が震え声で尋ねる。
健太はその恐怖の中で静かに言った。
「この村の過去を直視しなきゃ、俺たちは逃げられない…。」彼は自分の心に宿る思いを感じ、決意した。
彼らは立ち向かう必要があったのだ。
彼らは“還る者”に向かって叫び、全ての罪を過去に戻し、今、ここに生きていることを証明しようと心から願った。

そしてその瞬間、健太たちは逃げた先で光に包まれ、村の影と共に消えていった。
それは村の過去と向き合うことで、未来に還ることができた証でもあった。
彼らの勇気が村を解放し、静けさが戻った。
健太と陽子の存在は、村の新たな始まりとして語り継がれることになったのだった。

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