昔、北海道のある小さな村には、古い物語が伝わっていました。
この村には、昔の人々が神聖視した「れ」と呼ばれる神秘的な場所がありました。
その場所は、村のはずれにある深い森の中に佇んでおり、誰も近づこうとはしませんでした。
村人たちはこぞってその場所に関する怪談を語り、大人も子供もそこに入ることを恐れていました。
その日のこと、大学生の中村健二は、友人たちとキャンプに出かけることになりました。
彼はどこか興味をそそられるものを感じていました。
それは「れ」にまつわる話でした。
森の中でキャンプをするということは、そこに行かざるを得ない運命にあるかのように思えました。
健二は、どうしてもその場所を訪れたいという衝動に駆られました。
夜になり、友人たちが焚き火を囲んでいると、健二はこっそりと森の中へ足を踏み入れました。
薄暗い木々の間を進むにつれて、彼は次第に不安を感じ始めました。
森の奥へ進むにつれて、静寂が支配し、普段耳慣れた自然の音も消えてしまったかのようでした。
その時、彼はがらんとした木製の物置小屋を見つけました。
そこは明らかに長い間放置されていた様子で、周りには雑草が生い茂っていました。
好奇心に駆られた健二は、物置の中を覗くことに決めました。
扉を押し開くと、糸くずのような薄暗い光が漏れ、そこには古びた道具や生活用品が乱雑に置かれていました。
彼が物色していると、ふと一冊の古い本に目が留まりました。
埃を被ったその本を開くと、「れ」に関する伝説が書かれていました。
そこには、かつてこの村が栄えていた頃、人々が神々に感謝しようと「れ」の奥にある祭壇に供物を捧げたという物語が記されていました。
しかし、ある時、供物が足りず怒った神々は、村の人々に厳しい罰を与え、選ばれし者を「別の世界」へ還してしまったという伝説が。
驚きつつも、健二はその物語に引き込まれていきました。
その瞬間、彼は背後に重たい気配を感じました。
振り返っても誰もいないはずの視界に、黒い影がちらりと通り過ぎました。
心臓が高鳴り始め、恐る恐る影を追いかけると、見知らぬ道が開けていました。
その道はいつの間にか迷路のように入り組んでいて、健二は方向を見失いました。
不安と恐怖が交錯し、彼は元の場所に戻ろうと必死に走りましたが、何度も同じ場所を通っているように感じました。
彼の脳裏には、先ほど読んだ物語の一節がかすかに響いていました。
「還ってこられぬ者たち。」
恐怖に耐えられず、健二は声を上げました。
「助けてくれ!」その叫びが森の中に響き渡り、やがて無数の囁き声が返ってきました。
それはまるで村人たちの怨念が形となり、彼の周囲を取り囲んでいるかのようでした。
彼は「れ」の存在を明確に感じ、恐ろしい現象が起きているのだと理解しました。
気がつくと、健二は再び物置の前に立っていました。
しかし、彼の周りには友人たちの姿はなく、焚き火も消えていました。
彼は一人ぼっちの暗闇の中にいました。
その時、彼は初めて「別の世界」に踏み込んでしまったのだと悟りました。
逃げようにも、戻る道も見えない。
心の底から恐怖を感じ、彼は静かにその場に崩れ落ちたのでした。
健二の報われぬ声は、今も「れ」の森のどこかで囁き続けていると言われています。
村人たちは、彼を忘れないように、毎年祭りを行うことにしました。
それは健二のための祭り。
村の人々は見えない神々に感謝するために、今でも供物を捧げ続けているのです。