深夜、東京の片隅にある古びたアパートで、22歳の山田由美は何もない部屋に一人、静かな時間を過ごしていた。
都市の喧騒から逃れるように、彼女はここに引っ越してきたのだった。
しかし、静けさはすぐに彼女を不安にさせた。
ある晩、由美は急にランプの明かりが消えるのをきっかけに、目を向けた。
ランプは不気味なほどに古く、思わず触れてみると、まるで何かが反応したかのようにひんやりとした感触が伝わった。
その瞬間、何かが彼女の中に根を下ろしたような気持ちになり、由美はその光景を見つめ続けた。
それから数日が経つと、由美は次第にそのランプの光に引き寄せられていった。
彼女の心に薄暗い懐かしさが芽生え、それはまるで子供の頃の思い出のようだった。
集まっていた友人たち、無邪気に笑い合った日々。
しかし、現実は彼女が望んでいたものとは違っていた。
友人たちはそれぞれの道を歩み、由美は独りぼっちだった。
「なんで私だけが…」由美はしばしばつぶやいた。
その瞬間、ランプが再び点灯した。
今度は小さな声が聞こえた。
「あなたは今、選ぼうとしている。その選択が重要なんだ」と、彼女の耳元で低く囁く声。
恐怖と興味が入り混じる中で、由美はその声に従って自分の意思を確かめようとした。
声の主は見えないが、まるで彼女の心の奥底に潜む過去を引き出そうとしているようだった。
どちらの道を選ぶべきか、再び孤独な道を歩むのか、新たな一歩を踏み出すのか、考え続けた。
深夜、由美はとうとうランプの前に座り、決心を固めた。
「私はもう迷わない」と。
すると、思いもしない現象が起こり、部屋の空気が変わった。
奇妙な熱を感じ、足元に黒い影が忍び寄った。
由美は怯えながらも、心の中で自分自身に問いかけた。
この選択は本当に自分のものなのか。
それとも、影が私を導いているのか。
影はさらに形を成し、目の前に現れた。
白い顔をした女性の姿だった。
それは由美が忘れかけていた、幼い頃の記憶にひょっこり現れた母の姿だった。
微笑む母は、「あなたの選択は決して間違いではないわ。ただし、どちらの道も容易ではない」と優しく言った。
「私も選ぶ」と、由美はしっかりとした声で応えた。
母の影は消え入りそうになり、何かを訴えるように目を輝かせた。
「選んで、よく考えて。選ぶことは生きることなのだから」と言葉を残していった。
由美の心には母の声が響き続け、温かな感情が胸を満たしていく。
彼女は過去の痛みを受け入れ、前に進むことを決意した。
次の日、由美は新しい挑戦を始める決意を固めた。
フリーライターとして、自分の言葉を紡ぐことに挑戦することにした。
孤独を感じていたあの日々とは違って、今は明るい未来が広がっていると感じていた。
それからの由美は、ランプの明かりのもとで文章を書く喜びを見つけた。
時折、背後に母の微笑みを感じながら彼女は新たな道を歩み続けた。
選ぶことの大切さを心の底から理解し、決して振り返らない強さを持つようになったのだ。
しかし、ある晩、由美がランプに火を灯すと、やはりあの低い声が響いた。
「あなたは試されています。まだ選択があるのよ」。
彼女はその言葉を聞いても、今は怖れを感じなかった。
選ぶことが生きること、そして何より自分の道を見つけた今、自信を持って前を向いていた。