たった一つの選択が、すべてを崩れさせる運命の鍵だった。
夏の終わり、佐藤健太は、友人たちと共にスキー場へ向かうことに決めた。
彼らの目的は、日常を忘れ、自然の中で楽しむこと。
そのスキー場は、長い間営業を停止していたが、最近になって再オープンしたばかりだった。
その日は、あいにくの曇り空だったが、雪はしっかりと積もっていた。
彼らは滑り始めると、すぐにそのゲレンデの美しさに魅了された。
健太は、自分が選んだ道を下る中、時折、他の友人が滑る姿を見ながら笑い合った。
しかし、何かが違和感を与えていた。
雪の白さに包まれた中、時折、薄暗いものが彼の視界の隅で動くのを感じた。
それはまるで、悪意をもった影のようだった。
「おい、健太!見てみろ!」友人の一人、山田が大声で叫ぶ。
彼の声が周囲に響く。
「こっちに来てみ!ここ、すごい滑りやすいぞ!」健太は息を切らしながらも、その声に惹かれてゲレンデの端へと向かった。
そこには、他のスキーヤーたちが通ることのない、古びたトンネルのような穴があった。
友人たちは周囲の雪を掘り起こし、目に見えない何かの存在感に興奮していた。
“これ、試してみようぜ。
”山田の言葉に、他の友人たちも同意する。
健太は一瞬のためらいを覚えたが、楽しむことを選んだ。
彼は山田の後を追い、その穴に入り込んだ。
暗闇の中、彼の心臓が早鐘のように打ち始めた。
かすかな光が先に見え始め、彼らはさらに進む。
穴の奥には、小さいが不気味な空間が広がっていた。
そこには、古い模型のようなモンスターの頭部が飾られていた。
それは、恐ろしい形をしており、どこか人の顔に似ているようだった。
健太は思わず後退し、その場から逃げ出したくなったが、友人たちの笑い声が彼を引き止めた。
「健太、お前も来いよ!」その呼びかけが、彼を引き戻した。
果たして、彼らはその恐ろしい模型を囲み、明るい笑顔を見せた。
健太は、自分がその中で異物となっていることに気付いていた。
自分だけが、この現象に対して何か違和感を抱いている。
“どうしてだろう…?”彼の心の中に不安が渦巻く。
すると、仲間の一人が、模型の口を大きく開けて見せた。
「これ、口の中に何か入れてみようぜ。運が良ければ、願いが叶うかも。」その言葉に彼は一瞬驚いたが、普段の明るい笑顔の仲間たちが、その様子を楽しむのを見て、自分も参加することにした。
自分の願いが、その恐ろしいそのものにかけられるとは思いもしなかった。
鉄のように冷たい空間で、彼は一つの雪の結晶を手に取り、模型の口の中に投げ込む。
すると、瞬間、あたりが真っ暗になった。
恐怖に心がかき乱された健太は、急いで周囲を見渡した。
そこで、皆の顔が歪んでいるのを見た。
笑顔ではなく、恐ろしい顔に変わっていることに気づく。
その後、突然、強い力で吸い寄せられるような感覚に襲われた。
彼の足元が崩れ、その場から抜け出すことができなかった。
暗闇の中で、彼は叫びをあげた。
自分の命が、そこで捕らえられていることを直感していた。
眼前に現れたのは、先ほどの模型と同じ姿をした影だった。
彼は動揺し、その存在を認めてしまった。
しかし、周囲にいた友人たちが急にその場から消え去り、暗闇だけが彼を取り囲んだ。
“ここに来てしまったのは、選択の結果だ。
”彼は、その言葉がふと蘇り、心の底から恐ろしいものを感じた。
目の前に立ち尽くす影は、彼の心の奥底に潜む恐れを象徴していた。
刻一刻と流れる命の儚さを感じながら、彼は悪の力がその場に根付いてしまったことを理解した。
結局、そこに閉じ込められた健太の声は誰にも届かず、彼の姿はそのスキー場の中に永遠に消えた。
時折、訪れる者たちは、彼が残した影を見つけることになる。
しかし、誰もその存在の正体に気づくことはない。
このスキー場には、命の選択が重くのしかかる運命が、静かに響いているのだ。