敷は、広大な田園に囲まれた静かな村で、そこには皆が大切にしている古い算盤が伝わる神社があった。
その神社では、毎年村人たちが集まり、大切なそうじを行い、感謝の意を込めて参拝をしていた。
この神社にまつわる言い伝えは、長い年月を経ても恐れられ、村の人々はその存在を決して軽んじることはなかった。
主人公の佐藤俊介は、東京から敷村に引っ越してきた若者だった。
彼は、忙しい東京の生活に疲れ、自分を見つめ直すために、この静かな村に住むことを決めた。
ある日、俊介は村の人々から「神社で算盤を触ると、運命が変わる」との噂を聞く。
最初は半信半疑だったが、彼の興味は次第に興味を引かれていた。
ある満月の夜、俊介は思い切ってその神社へ足を運んだ。
暗い道を進むうちに雲が流れ、月の光が妖しく音を立てて輝き出した。
神社は静まり返っていたが、何か不気味なエネルギーを感じ取るような静けさだった。
彼は心の中で不安を感じながらも、神社の境内に踏み入れた。
算盤は、神社の社殿の奥にひっそりと置かれていた。
木製のその算盤は、時間を感じさせる独特の輝きがあり、まるで生きているように見える。
俊介は、その算盤に手を伸ばした。
すると、不意に木の間から低い声が聞こえてきた。
「選び取れ、選び取れ、運命の間を…」
俊介は息を飲み、周囲を見回したが誰もいなかった。
心臓が高鳴り、再び算盤に視線を戻す。
目の前の算盤はまるで彼に呼びかけるようで、今すぐ触れてみたくなった。
そして、一抹の不安を抱きながらも、彼は算盤の玉を弾いた。
その瞬間、神社の空気が変わった。
月明かりが薄暗くなり、急に冷気が漂い始めた。
俊介の腕には、じわりと冷たい感覚が走り、目の前の算盤からは光が放たれる。
その光には、見えない運命の糸が無数に絡み合っていた。
俊介はその光に引き寄せられるように、次第に圧倒されていった。
彼の頭の中には、様々な選択肢が巡り始めた。
進学、恋愛、仕事、友情、すべての過去の選択が浮かび上がってきて、どれもが彼の未来を左右する重要な出来事として、次々と現れた。
しかし、その現象は次第に彼の心に暗い影を投げかけ始めた。
「選び取れ」と声が再び耳に響くと同時に、俊介はついに自分が選ぶことに対する恐怖を感じ始めた。
彼の周りには過去の選択肢が現れ、生きた映像として彼を襲う。
友人を失った瞬間、恵まれた仕事を逃した夜、愛する人との別れ…それぞれが彼を責め立て、いまここに存在することの正当性を疑わせた。
俊介は選択の間の苦悩に苛まれる。
時間は無限に感じ、自分だけが取り残される感覚から逃れられなかった。
闇の中で、彼はその声が「選べないもの」を選んだとき、運命がころがり落ちるのを感じた。
想いもかけず、彼に与えられた未来は、彼の選択によって伸びるはずなのに、いつのまにかその箱の中で、彼を許す言葉を失った過去の影がほのかに笑っていた。
恐怖と混乱の中、俊介は思わず算盤から手を離した。
すると、不意に日常がもどってきた。
周囲は静けさを取り戻していたが、彼の心には深い不安が残った。
彼は見たことのない景色が、彼の心に落ちて消えていった。
その夜から、俊介は神社に行くことを避けた。
しかし、心の中には、落ちてしまった運命が支配していることを忘れられなかった。
毎晩、夢の中であの算盤と、「運命を選べ」という声が再び響いていた。
まるで彼を逃げることのできない迷路に閉じ込めているかのように。
彼はそれ以来、落ちた選択肢の間を彷徨い続け、自分に与えられた運命を受け入れることはできなかった。
ただ、一つだけ確かなことは、選ばなかった選択肢が、彼の未来に影を落とし続けているということだった。