「選ばれし者の罠」

静かな夜、桜が散る公園の片隅にある古びたトンネル。
その向こうでは、昔の話に語られるような不気味な噂がひそやかに流れていた。
地元の人々はこのトンネルを避けるようにしている。
そこには「理の罠」が存在するというからだ。

そのトンネルに近づいたのは、大学生の佐藤健二。
彼は心霊現象を研究するサークルに所属しており、仲間からのすすめもあって、真相を確かめるために訪れたのだった。
彼はライトを携え、恐る恐るトンネルの中に足を踏み入れた。

トンネルの中はひんやりとした冷気が漂っており、健二は不安を抱えつつも進み続けた。
彼の心には「罠」という言葉が響き渡る。
噂によれば、このトンネルには時折、霊が現れ、通行人を迷わせるという。
注意して見守るべきだと心に決めた。

「大丈夫、何も起こらないさ」と自分に言い聞かせる。
トンネルの奥で微かに光るものを見つけ、健二はそれに向かって近づいていった。
すると、そこには人の形をした影が立っていた。
息を呑む健二。
そして、それは彼が想像していた通り、霊だった。

その霊は桜の花びらのような淡い光を放ち、悲しげな表情を浮かべていた。
彼女の名前は、石井由紀。
生前はこの公園を愛し、よく足を運んでいたが、ある日、突然失踪してしまった。
その体には散りばめられた桜の花びらのような、淡い光が宿っていた。

「あなたは誰?」健二は恐る恐る尋ねた。
由紀は健二の目をじっと見つめ、「私は迷っている。このトンネルで、私が何をしたのか、言葉を聞きたくてここにいる」と答えた。

その言葉に健二は驚き、話を続ける。
「どうして迷っているの? 何があったの?」由紀はゆっくりと語り始めた。
彼女はかつて、恋人と共にこのトンネルを通ったが、突如として彼女だけが残された。
そして、彼女は自分の命を絶った。
その悲しみと混乱が、今もなおこの場所に留まっているのだ。

「私は理を求めている。なぜ私だけがこんな目に遭ったのか、その理由が知りたいの」と由紀は訴えた。
健二は何とか彼女を助けようと心に決めた。
「私がその理由を探るから、もう一度その時の状況を教えてほしい」と言うと、由紀は目を細め、微かに頷いた。

彼女は再びその瞬間を振り返り始めた。
彼らがトンネルを歩いていると、ふと不気味な声が響いた。
「ここを通る者は、選ばれた者にしかこの先には進めない。」突然、恋人が消えてしまったという。
健二はその言葉に強い違和感を覚えた。
おかしな気分が胸を押し締める。

「まさか、あなたがその選ばれた者なの?」健二は由紀に尋ねた。
彼女は無言で頷く。
霊たちは、その選ばれた者を引き込んでしまう「罠」を仕掛けていたのだ。
由紀は、自分が選ばれたことに気づくまでの恐怖と焦燥感を思い出しながら、健二に告げた。
「本当に理を求めるのであれば、この罠に嵌ることなく真実を知ることができるだろう。」

その瞬間、トンネルが震え、影が二人を取り囲む。
健二は急に理解した。
自分もまた、選ばれた一員なのだと。
彼は過去に何があったのかを解き明かすために、愛と悲しみの狭間で試される運命の渦に巻き込まれていく。

由紀は彼に、命を懸けて理を探求することを求めるが、同時に彼の胸の奥に潜む恐怖も感じ取っていた。
果たして、彼はこの真実を見つけることができるのだろうか。
そして彼女の魂は、黙示される命との絆を解き放たれるのか。

トンネルの奥深く、時間の流れが歪み、健二は勇気を振り絞って進むしかなかった。
理を求める者の旅は、かつての失踪者たちの霊と共に始まったのだった。

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