ある日のこと、大学生の佐藤は友人の山田、鈴木、そして田中と一緒に肝試しを計画した。
彼らは中でも噂の絶えない「呪われた村」に出かけることにした。
その村は、かつて神社があった場所とされ、地元の人々がそこを避ける理由は「呪い」と呼ばれる現象にあった。
数年前、一人の若い女性がその村で行方不明になり、その直後に奇怪な出来事が頻発したというのだ。
夜が更けるに連れ、彼らは村の近くに到着した。
周囲は静まり返り、月の光だけが道を照らしていた。
「本当にここに来るべきじゃなかったかもな…」と山田がつぶやくが、他の仲間たちは恐れをも笑い飛ばした。
無邪気さの中に潜む恐怖を感じつつ、彼らは呪われた村の入り口に足を踏み入れた。
村は朽ち果て、草が生い茂った家々が立ち並んでいた。
道を進むにつれて、なぜか一人一人の心に不安が広がっていく。
やがて、彼らは村の中心にある古い神社に辿り着いた。
そこには、かつての神職が残したと思われる石でできた祭壇があり、周囲には小さな祠が立っていた。
哀しげな雰囲気が漂い、村の過去の悲劇が感じられた。
「ここで何かしようぜ」と鈴木が提案した。
「たとえば、呪詛の言葉を唱えてみるとか」と冗談半分で言った。
その言葉を聞いた途端、田中は顔を青ざめさせた。
「それはやめよう。よくないって噂だよ」と言うと、鈴木は笑って「大丈夫、大丈夫、そんなことある訳ないよ」と言い残し、彼らは祭壇の前に立った。
鈴木が呪詛の言葉を口にすると、急に風が吹き荒れ始めた。
彼らは驚き、互いに顔を見合わせた。
「なんだ、これは?」と山田が言った。
しかし、鈴木はすでにその声を聞いていた。
耳元に囁くような声、「戻れ、戻れ…」一瞬、彼は正気を失い、どこか別の世界に引き込まれそうになっていた。
ふと気がつくと、彼の周りに仲間たちはいなかった。
「みんなどこにいる?」と叫ぶ鈴木。
しかし返事はない。
暗闇の中、彼は独りきりだった。
急に壁が崩れ落ち、彼の足元に小道が現れた。
「この先に何かがある…」鈴木はその小道に吸い寄せられるように進んでいった。
その道を進むうちに、まるで時間が経過していないかのように感じた。
小道の先には、かつてこの村に住んでいた女性の姿があった。
彼女は無表情で、鈴木に目を向ける。
「私を選んで…」彼女は微かに呟いた。
その声は切実で、鈴木の心をざわつかせた。
しかし、鈴木は本能的に後ずさりした。
「私は選ばない!」と叫んだ瞬間、村全体が揺れ動き、周囲の景色が変わり果てる。
一瞬、鈴木の目の前に他の仲間たちが現れるが、彼らはまるで夢の中のようにぼんやりとした表情を浮かべていた。
「鈴木、助けて…」と声が聞こえるが、その声も次第にかき消されていく。
どこからともなく再び囁き声が響く。
「選ばなければ、呪われる…」鈴木は耐えきれなくなり、再び小道へと引き寄せられる。
心をむしばむ恐怖の中、彼は最後の選択を迫られていた。
「戻りたい…戻りたい!」と彼は必死に叫んだ。
その瞬間、鈴木は目を覚ます。
気がつくと、仲間たちが心配そうに彼を見つめていた。
彼は呆然とし、自分が何を見ていたのかを思い出そうとした。
しかし、村の空気が重く、あの女性の言葉が頭から離れなかった。
仲間たちと一緒に戻る途中、鈴木の心には彼女の囁きがいつまでも残り続け、「選ぶことは失うこと」を忘れることはできなかった。
彼はその呪いに囚われてしまったのだと、薄々感じていた。