静かな田舎町、誰もが一度は通る「の」の字の形をした古い道。
あちらこちらにある廃屋や陰気な木々が、訪れる人々に不気味さを感じさせる場所だった。
そんな道を通ることを避ける住民たちだが、大学生の太郎は興味本位で友人の美香と共にその道を通ることにした。
夜、月明かりに照らされた道を歩く二人の足音が響く。
話しながら歩いているうちに、美香が突然立ち止まった。
「ねえ、この道、なんだか冷たい風が吹いてこない?」
太郎は周囲を見回したが、風が吹いている感覚はなかった。
「気のせいだよ、美香。ただの幻想だって。」
それでも、彼女は心配そうな表情を崩さなかった。
しかし、そのまま進むことにした二人。
暫くすると、「い」の実のように真っ直ぐに立つ木々の間に、何か異様な気配を感じた。
どこかから、微かに囁き声が聞こえてくる。
「おいで…おいで…」
「誰かいるの?」美香は怯えた様子で聞くが、太郎は笑って言った。
「ただの風の音だろ。」
しかし、その声は徐々に大きく、明確になっていく。
「おいで…おいで…」
彼らはそれがまるで人間の声に変わっていることに気付く。
太郎も不安を感じ始めたが、友人を励ますように前に進んだ。
「大丈夫、すぐに通り抜けるから。」
ここで、美香がついに口を開く。
「ねえ、太郎…これ、すごく変だよ…」
彼が「大丈夫」と言おうとしたその瞬間、道の両側の木々が不気味に揺れた。
二人は立ち尽くし、その瞬間、視界から何かが落ちてきた。
見るとそれは古びた人形で、一瞬、周囲が静まり返った。
「怖い、これ、やめよう。」美香が言ったが、太郎はそれを無視して手に取った。
人形の目はどこを見ているのか分からない不気味さだったが、さらに不気味なのはその髪の毛の一部が風に揺れていることだった。
「何かおかしい…」美香が言うと、太郎はその場を取り繕った。
「ほら、ただの人形だろ?大したことないよ。」
その時、再び「おいで…」という声が響いて、二人は二度と背後を振り向くことができなかった。
気がつくと、周囲の景色は一変しており、道が「の」の形を強調し始めていた。
周囲は自分たちの姿を隠すように、より暗く、より考えられない恐怖を煽っていた。
美香は恐慌状態になり、太郎を引きずるようにして前に進もうとしたが、「い」の実のような感覚が体を包む。
「私たち、ここから出られない…」彼女はパニックに陥っていた。
「美香、落ち着いて…」太郎も動揺しながら、木の間から見える景色を確認しようとするが、木々の間には何も見えなかった。
ただただ、螺旋状に絡み合った道が続くばかり。
「なに、これ…?」美香の声が震える。
二人は立ち往生し、再び「おいで…」という声が響き渡る。
「おいで…ここにおいで…」
その声が二人の心に直接響いてくる。
友人同士の絆がいかに強いかを示す試練が求められているようだった。
しかし、太郎はその言葉に反発した。
「出て行くんだ、しっかりして!」と叫び、彼女をしっかりと掴む。
だが、美香は意志を失ったかのように、彼に背を向けて歩き出した。
「おいで、こっちに来て…」彼女の声も他人のように変わった。
太郎は必死で引き止めようとするが、彼女は神秘的な魅力に引き寄せられていく。
「美香、待ってくれ!」
その瞬間、彼女が消えた。
静寂の中に只々「おいで」という声だけが響く。
そして、太郎は気づいた。
「これは絆を試すための罠なのか…」
美香を取り戻すため、彼は自分が『友達たちのために立ち上がる』勇気を持つ必要があると感じた。
しかし、いつのまにか道が閉じられ、彼自身もその中に飲み込まれていく。
彼はついに、静寂の中に放り込まれたのだった。