千鶴は、祖母が住んでいた古びた家に一人で戻ることになった。
家は、かつて彼女が幼い頃に遊びに来た思い出深い場所だが、その風景は今、どこか異様な雰囲気を漂わしていた。
畳は色あせ、かすかに湿った匂いが立ち込め、庭の木々は不気味に揺れている。
夜が深まり、千鶴は部屋の灯りを落とし、静かな時間を楽しむことにした。
しかし、じっとしていると、畳の下から微かに聞こえる音が気になり始める。
「ゴトン、ゴトン」と、何かが動く音だ。
まるで、そこに何かが潜んでいるかのようだった。
不安を感じた千鶴は、思わず地面を叩いてみた。
しかし、反応はなく、ただ音が響くだけだった。
彼女は深呼吸し、心を落ち着けようとしたが、どこか不安が拭えない。
祖母が言っていた「この家には、過去の影が宿っている」という言葉が頭をよぎる。
その時、突然、部屋の空気が重くなる。
窓が無いかのように暗くなり、千鶴は恐怖を感じながらも、勇気を振り絞って周囲を見回した。
畳の上には、現実ではない何かがいる。
闇の中からぼんやりとした人影が浮かび上がり、彼女を見つめていた。
その影は、かつての戦の名残を持ち、流れるように動く。
千鶴は身動きが取れず、その影に引き寄せられるように感じた。
またしても「ゴトン」と音が響き、影が畳の上に近づいてくる。
「あなたは、私の家に何をしに来た?」その声は耳の奥に響き渡り、彼女は凍りついた。
影の顔が徐々に明るくなり、そこには傷だらけの若者がいた。
彼の目は、無数の戦の記憶を宿し、曇っていた。
彼は生前、激しい戦闘を経験し、ここで命を落としたのだという。
千鶴の心臓は高鳴り、彼の声が何も求めていないことを理解した。
「私は様々な過去を見続けている。戦うことも、逃げることもできずに、ただここに留まってしまっている。」若者は苦しげな表情で言った。
彼女は、何を思ったのか、畳の上を指でなぞってみた。
「過去は変えることはできないけれど、今はどうあるべきか考えることはできるよ」と言った瞬間、影は一瞬ぎこちなく動いた。
彼の目に、救いを求める表情が浮かんだように感じた。
しかし、千鶴は急に不安に襲われる。
周囲に溜まった暗闇が彼女を包み込み、再び「戦え」という声が響いた。
彼女の心に突き刺さるような感覚が芽生え、自分を戦わせるという選択を迫った。
しかし、彼女が戦う相手は若者ではなく、心の中の恐怖そのものである。
暗闇と戦う決意を固めた彼女は、ほんの少しでも対抗するために力を込めた。
千鶴の意志が強くなればなるほど、暗闇も渦を巻きながら強くなった。
やがて彼女が持ちこたえた瞬間、若者は彼女の目を見た。
「あなたには、自分を見つける力がある。もう一度、光を見つけることができるのだ。」
その言葉が千鶴の心を震わせ、彼女は自分を取り戻すことができた。
若者も、霞んで消えていく。
畳の下からの音は次第に静まり、闇も薄れていった。
千鶴は涙を流しながら、再び自分の道を見つける決意を固めた。
こうして彼女は、過去の影を背負いながらも、新たな未来を見出すことができた。
そして、その夜、彼女は一人の戦士として、心の中の闇との戦いに臨むことを決意したのであった。