河原でのんびりと過ごしていた大学生の健太は、ある夏の晩、友人たちと肝試しをすることに決めた。
彼らは地元で有名な「ホ」という名の古びた橋に向かうことにした。
そこには、いくつかの怖い噂があり、特に真夜中にその橋を渡ると、消えてしまった人々の幽霊に出会うと言われていた。
月明かりの下、彼らは橋のたもとに立ち、心の中で恐怖を感じつつも、笑い合って勇気を奮い立たせた。
健太は友人の中でも特に肝が据わっていると自負しており、勇敢に橋を渡る先頭に立った。
彼の後ろに続く友人たちも、緊張しつつもその様子を見ていた。
しかし、橋を渡り始めたところで、風が不気味に吹き抜け、健太の背筋がぞくりとした。
彼は声を張り上げて恐怖を振り払おうとしたが、その瞬間、背後からかすかな叫び声が聞こえた。
「ああ、助けて…」その声ははっきりと耳に残った。
振り返ったが、誰も癒えず空虚な闇が広がっているだけだった。
「誰かいるのか?」と恐る恐る声をかけたが、返事はなかった。
友人たちもその声に気づき、不安そうに顔を見合わせた。
心の中で「ただの悪戯だろう」と自分に言い聞かせるも、邪念が消え去らなかった。
健太は数歩進んで振り返り、もう一度声をかけた。
「誰かいるなら出てきて!」
すると再び、今度はまるで耳元でささやくように「助けて…」という声が響き渡った。
まるで自分の内なる声に導かれ、健太は思わず進み続けた。
友人たちは彼を止めようとするが、健太は強引に進む。
萬矢が蕎麦を打つような手元をする一方で、その声はさらに大きく彼を呼びかけていた。
「健太、ここだよ…過去に迷い込んじゃった…」
一瞬、不思議な感覚に包まれた健太は、足元がふわふわした感覚になる。
頭の中で鮮明に浮かび上がってきた映像は、彼が幼いころに川で遊んでいたとき、ふと見つけた小さな女の子の姿だった。
「大丈夫だよ、来て…」その声はどこか懐かしささえ感じさせるものだった。
しかし、彼の背後で友人たちの不安が募り、彼を引き戻す。
今、彼の目の前には当時の懐かしい風景と共に、小さな影が浮かび上がってきていた。
それは彼の心の奥の記憶からずっと消え去っていたはずの存在だった。
「あなたは…?」目の前に現れたのは、かつて彼がどこかで見た少女の幻だった。
「一緒に遊ぼう!」そう言って手を差し出す少女。
健太の中には友人たちを無視してその手を取ろうとする衝動が湧き上がる。
しかし、その瞬間、彼は目を背ける。
「あなたは過去の私じゃない、私はもうここに居る意味がないんだ」と強く思った。
そのとき、突然、強い風が吹き、橋が揺れ動く。
その影は一瞬で消え去り、友人の叫び声が響いた。
彼は振り返り、その場から足を引きずりながら走り出した。
今までの恐怖が一瞬にして具現化し、彼の心を覆い尽くした。
健太は友人たちとともに急いで橋を渡りきり、背後にはあの幻の少女の声が微かに残った。
「どうして振り向くの…」それが、最後の言葉となった。
橋を抜けた健太たちはそのまま逃げ出し、振り返らずに夜の街へと消えていった。
心の奥底に潜んだ恐怖が、彼の中でずっと占め続けることとなった。
そして、あの夜の出来事がいつまでも心の中を回り続けることとなり、彼は二度とあの橋を渡ることはなかった。
彼はただ、忘れられない声と共に、ホの恐怖を胸に抱えて生きていくことになった。