「運命を記したページ」

検は、ある静かな町に暮らす若い作家であった。
彼は物語を書くことに情熱を注ぎ、特に人間の心理や変わった現象に関しての作品を好んでいた。
夜遅くまで執筆に打ち込む彼の部屋には、古い本や文房具が所狭しと並べられ、静寂の中に時折、カチャリとペンが転がる音が響くのだった。

ある日、検は町の古本屋で一冊の本を見つけた。
それは表紙に「夢を超える書」と記された、古びた革表紙の本であった。
興味を惹かれた彼は、思わず手に取ってみる。
ページをめくると、そこには様々な物語が詰まっていた。
しかし、どこか異様な感覚が彼にはあった。
登場人物たちが実在の人物に似ていたからだ。

彼がその夜、本を読み進めるにつれ、物語の世界にどんどん引き込まれていった。
物語の中で起こる出来事が次第に彼の日常にも影響を及ぼすようになっていった。
例えば、ある主人公が背負った運命を検自身が体験するという不思議で恐ろしい現象が続いたのだ。

検はその本の真実を疑った。
だが、彼の注意を引くのは、その本の中に描かれた「書」と「変」の存在だった。
内容はまるで彼を観察し、彼の生活に恐怖の影を忍び寄せているかのようだったのだ。
彼は焦り、書くことを辞めようとしたが、どこかに引き寄せられる感覚があり、ペンは止まらなかった。

日が経つにつれ、彼に起こる現象はますます奇妙になっていく。
夜中に目を覚ますと、薄暗い部屋の隅に誰かが立っているかのような気配を感じたり、彼が書いた内容が現実として目の前に現れることもあった。
ある晩、ついに彼は恐怖心を抱えたまま、書き続けることに決めた。

「書くことによって、何か変わるはずだ」と彼は考えた。
彼が自らの物語を書き進めるにつれ、自らの運命に影響を与えていることを実感した。
しかし、時間が経つにつれ、その変化は彼にとって恐ろしい結果となることに気づく。
物語の中で彼が設定した展開が、現実の彼に実際に影響を与え始めたのだ。

町に異常が起こり始めた。
幾つかの人々が姿を消し、周囲の風景が変わり、不気味な雰囲気が流れるようになった。
彼の書いた物語の主人公たちの運命に彼も巻き込まれてしまったからだ。
彼は混乱し、どうにかこの状況から抜け出そうと必死になった。

しかし、どれだけ書き換えても、物語は彼の意志とは真逆に進んでしまう。
町の住人たちが一人ずつ病に倒れ、本の内容が彼の意識を侵食していく。
書いた物語は彼にとっての呪いとなり、彼の存在を薄めていくかのように思えた。

最後に、彼は決心した。
もうこの本を閉じ、何も書かないことにする。
だが、どれだけ努力しても手が震え、ペンを置くことができなかった。
意志に反して、彼の手はその本に導かれ、知らぬ間に最後のページを書き綴っていく。

その瞬間、彼は気づいた。
自らが書いていたのは、ただのフィクションではなく、実在する運命の造り方だったのだ。
最後に「私は消える」と書いた瞬間、彼は黒い霧に包まれ、彼自身も物語の一部となり消え去ってしまった。

本はそのまま古本屋に戻り、新しい持ち主の手に渡ることとなる。
ゆっくりとページをめくっていくその人物も、また「変」という現象によって引き寄せられていく運命にあるのだった。

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