「運命を背負う者」

彼の名は健一。
仕事に追われる日々の中、都会の喧騒を離れ、久しぶりに実家のある山村へ帰ることにした。
その村は、昔からの伝説や言い伝えが息づく、外界から隔絶された場所だった。

健一が村に到着すると、全てが静まり返っていた。
道路には落ち葉が積もり、周りの山々は霧に包まれている。
小さな村の入口にある古びた鳥居を潜ると、違和感に襲われた。
村の人々は、彼が知らない何かを抱えているように見えた。

夕食時、健一は祖父の家で村人たちと共に食事をしていた。
話題は自然と、伝説に移った。
村には「別の世界に繋がる場所」があるという噂があり、そこには「異」と呼ばれる神秘的な存在がいると語られていた。
村人たちはその存在を恐れ、決して近づかないのだという。

「そういえば、最近は具合が悪くなる人が多いね」と、一人の村人がぼやいた。
「あの場所に行った者が、限られた運命を背負うことになったからかもしれない」彼の言葉に、他の村人たちは黙り込んだ。
健一は興味をそそられ、「一体、どこにあるのか?」と尋ねた。
しかし、村人たちは答えず、視線を交わすだけだった。

その夜、健一は枕元に祖父が残した古い地図を見つける。
地図には、村の近くに「異界」と記された場所が示されていた。
それは、村の人々が恐れる「別の世界」へ繋がる地点だった。
彼の好奇心は抑えきれず、翌日はその場所に足を運ぶことを決心した。

翌朝、健一は地図を片手に山道を進んだ。
苔むした木々の間を抜け、時間が経つにつれて不気味な雰囲気が漂ってきた。
やがて、地図に描かれた場所に辿り着くと、目の前には見たことのない光景が広がっていた。
そこは、奇妙な色合いの草花が生い茂り、奇怪な音が響く場所だった。
健一は、この場所が「別の世界」に繋がっていると直感した。

しかし、その瞬間、彼の周りが暗くなり、視界が歪んでいく。
立ち尽くす健一の耳に、かすかな声が聞こえた。
「こちらへ来なさい…」その声は魅惑的でありながら、同時に恐怖をも呼び起こす響きだった。
気がつくと、彼は無意識にその声に導かれ、異界の奥深くへ進んでいた。

健一はそこで、異様な存在たちと出会った。
彼らは村の人々の迷いを吸収し、運命をいじる者たちだった。
彼らは彼に視線を向け、低い声で囁く。
「貴方も、限られた運命を背負う者となるのだ」

恐怖心が芽生えた健一は、逃げようと必死になったが、異界の力は彼を引き留め続けた。
意識が混乱し、彼は村人たちが語っていた「具合が悪くなる人々」が何を意味していたのかを理解した。
彼はその場から逃げることができず、全ての運命を新たに刻まれてしまった。

無事に村へ戻った健一は、自らの心に異界の影を宿し、もはや元の世界には戻れないことを悟っていた。
村の人々も彼の変化に気づくが、誰も彼に近寄ろうとはしなかった。
健一はただ、異なる運命に縛られ、静かにその生活を続けることとなった。

村も彼も、その後、互いに異なる影のように歩んでいくのだった。
どこかで繋がっているはずの運命は、別の世界で謎めいていた。
健一はその後、村に紛れ込みながらも、異の者として生き続けることとなった。

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