隠れた山奥の村には、古い言い伝えがあった。
それは「縁」と呼ばれる不思議な現象に関するもので、村人たちはそれを信じ、恐れていた。
村では、特定の音や言葉が、人々の運命を大きく変えると言われていた。
そして、その現象に触れた者は決して平穏な日々を送れなくなるのだ。
だからこそ、村人たちはその声を耳にすることを恐れ、禁忌として遠ざけていた。
村に住む佐藤健太は、特にその言い伝えに興味を持っていた。
大学生になり街に出た彼は、周囲から奇異の目で見られる存在だったが、彼の好奇心は衰えを知らなかった。
夏休み、彼は村に戻ることにしたが、その目的は「縁」という現象を実際に体験し、真相を解明することであった。
村に着いた健太は、早速その話を聞くために地元の居酒屋に足を運んだ。
そこで出会ったのは、高齢の村人、鈴木おじいさんだった。
おじいさんは、彼の好奇心を埋めるように「縁」と呼ばれる現象について語り始めた。
「若い者よ、その言葉を口にしてはいかん。縁は限られた聴こえにしか実らんのじゃ」と警告した。
彼の言葉には一抹の恐怖が込められていたが、健太は興奮を覚えた。
その夜、彼は村の外れにある古い神社に向かった。
そこは「縁」の声を聴くための場所とされており、村人たちは決して足を踏み入れなかった。
しかし、健太の心には、それを知りたいという思いが強くあった。
神社の境内に辿り着くと、深い静寂が包み込んでいた。
月明かりだけが彼の周りを照らしている。
彼は静かに目を閉じ、心を落ち着けた。
そして、村人たちが恐れていた「縁」の声を聞くために、心の中でその言葉を繰り返した。
「縁、縁、縁…」すると、次第に風が吹き始め、背後から不気味な声が聞こえた。
「聴こえるか?お前の運命は、誰かに繋がっている…」
その瞬間、健太は体が動かなくなった。
彼は恐怖と不安に包まれ、自らの運命を左右する「縁」を意識することに。
目の前には黒い影が現れ、彼の頭の中で数多の思念が混沌とした。
そして、その影が彼の中に入り込み、彼の記憶が流れ込んできた。
それは全く知らない子供の顔だった。
笑顔を浮かべたその子は、どこか懐かしさを覚える存在であった。
だが、その笑顔は次第に苦悶に変わり、「助けて!」と叫んだ。
彼はその声を聴き、何かが彼を引き裂くような痛みを感じた。
その瞬間、彼は「縁」がただの言葉ではなく、他人の運命が見えない糸で繋がっていることを理解した。
その後、健太は神社から逃げ出し、村の居酒屋へと戻った。
おじいさんの言葉が耳に残る。
「縁は限られたものだ。決して軽はずみに触れるべきではない」と。
彼は後悔の念に駆られ、自らの好奇心が決して取り返しのつかない結果を招くことになったことを痛感した。
数日後、村では健太の消息が途絶えた。
彼が神社で体験したことを村人たちは何も知らず、もはや彼の名前は消え去り、ただ「縁」の言葉だけが流れ続けた。
遺された者たちの中で、語り継がれることになったのは、「言葉には力がある。それは私たちの運命を結びつける」という教訓だった。
それでも、誰もが恐れる「縁」の影は、潜んでいるのであった。