小さな町の片隅に、古びた神社が静かに佇んでいた。
周囲の人々はその場所を避けるようにしていたが、町に住む青年、俊介だけはその神社に不思議な魅力を感じていた。
彼は、運を良くするために、時折そこを訪れていたのだ。
ある日、俊介が神社を訪れると、いつものように神社の奥にある小さな社に向かった。
彼は心の中で願い事を唱えつつ、お賽銭を投げ入れた。
しかし、その日は何かが違った。
彼の背後から、不気味な音が聞こえてきた。
あたかも誰かが叩いているかのような音だった。
恐怖を感じた俊介は、振り返った。
しかし、そこには誰もいなかった。
彼はその音を気にせずに帰路につこうとしたが、叩く音は続いた。
彼は心の中で不安が募るのを感じていた。
その日から、俊介は毎晩その音を聞くようになった。
まるで彼に向かって何かを訴えているかのようだった。
数日後、彼は町の噂を耳にした。
古くからこの神社にまつわる恐ろしい伝説が語られているという。
かつて、この地には一組の恋人がいたが、運命に翻弄され、悲劇的な別れを迎えたとされていた。
そして、その恋人の一人が恨みを抱えたまま今も神社に留まっていると言われた。
俊介はその話を聞いて、背筋が寒くなった。
彼は、彼女の憎しみが自分に向かっているのではないかと考え始めた。
その後、俊介は夢の中で彼女に出会った。
彼女の名は美咲。
彼女は彼の前に現れ、真剣な表情で語りかけた。
「私は、愛する人に裏切られ、今もこの場所に留まっている。恨みを持たずにはいられない。あなたも、私の運命を共にする者となるのだから。」
彼は恐怖に震えながらも、何とか彼女に伝えようとした。
「私はあなたを助けたい。でも、どうすればいいのか…」すると、美咲の目が怒りに変わり、囁くように言った。
「自分と同じような運命の者を、私のために引きずり込んでほしいの。」
その言葉に、俊介は恐れを抱いた。
しかし、彼女の苦しみを理解した瞬間、彼は彼女を助ける運命を自分が背負わされてしまったと感じた。
彼は、彼女の声に従うしかないのかもしれないと思った。
翌日から、俊介はある友人に目を付けた。
友人の名は大輔。
彼は俊介にとって、かけがえのない存在であり、彼の運を信じる人だった。
しかし、俊介の心には美咲の言葉が深く刻まれていた。
「あなたも共に運を共有してほしい」と。
ある晩、俊介は大輔を神社に誘った。
薄汚れた境内で、二人は会話を交わした。
しかし、俊介の心の中で、美咲がささやく声が響き渡った。
「叩いて、彼を引き込むのだ。」
恐ろしい決断を下し、俊介はこぶしを握り、友人に叩いた。
すると不思議なことに、その瞬間、神社の中で叩きつけられるような音が響き渡った。
大輔は驚き、恐怖の表情を浮かべる。
しかし俊介は止まることができなかった。
彼女の憎しみが彼を支配していた。
すると、美咲が現れ、二人の間に立った。
「彼の運を奪って、私に運を与えてくれ」と語りかける。
その瞬間、大輔が恐怖から逃れようと駆け出した。
しかし、俊介は彼の背中に目を向けたまま、その運命から逃れるすべを失っていた。
次の瞬間、大輔は何もかもを奪われ、意識を失った。
目を覚ました時には、彼はもうそこにはいなかった。
彼の運命はもはや消えていた。
俊介は、全てを奪った後に美咲に見つめられ、自らの選択の重さを痛感する。
しかし、その瞬間、美咲の顔には安堵の色が浮かんでいた。
俊介は今や彼女に心を引き裂かれ、愛されたかつての存在として留まることになった。
彼の心には、憎しみに彩られた孤独な日々だけが残されていた。
神社の裏には、また一つの運が消えたことを誰も知らないのだった。
