ある寒い冬の夜、晴人は友人たちとともに小さな町の外れにある神社に向かっていた。
神社には「れ」という名の忘れ去られたお稲荷様の祠があるという噂が立っており、彼らは肝試しを決行することになった。
神社は長い間人々に敬われていたが、近年は訪れる者も少なくなり、薄暗い森に隠れるように存在していた。
「ここが噂の神社か…なんだか気味が悪いな」と晴人は言った。
友人の慎太郎は「大丈夫、大胆な君なら怖がらないだろ?」と冗談を言い、笑いを誘った。
友達の中で一番のビビりである晴人は、彼らに負けないように勇気を振り絞った。
神社の境内には、古びた鳥居が立っており、周囲には無数の落ち葉が舞っていた。
晴人たちはそのまま祠へと足を進めた。
祠は小さく、元々は美しい赤の色合いだったであろう装飾が、今は色あせ、所々が剥がれ落ちていた。
彼らはそこで、手を合わせてみることにした。
「さて、運を試してみよう。願い事を言ったら、神様が聞いてくれるかもしれないぜ」と慎太郎が言い出した。
何も信じていなかった晴人は内心不安だったが、友人たちに合わせて手を合わせた。
彼らがそれぞれの願い事を唱えた瞬間、冷たい風が吹き、周囲が一瞬暗くなった気がした。
それからしばらく何も起こらなかったが、太郎が「見て、あそこに何かいる!」と叫んだ。
彼らの視線の先には、薄暗い中からの光がぼんやりと浮かび上がっていた。
心臓が高鳴る中、彼らはその光に引き寄せられるように近づいていった。
そこには、数え切れないほどの小さな道標が立っていた。
それぞれには「運」「幸」「居て」「文」などの不思議な文字が刻まれていた。
晴人は辺りを見回し、急に不安な気持ちになった。
「これ、何なの?」友人がそう聞いても、誰も答えられなかった。
不気味な沈黙が流れ、急に周囲の温度が下がったように感じられた。
「もしかして、私たちの願いが何かに触れたのかも」と晴人は言い出した。
すると慎太郎が、「ちょっと待て、運が試されるって言ったろ。友達なんだから、みんなでどんな運を探しに行こう」と提案した。
それに従い、彼らは道標を頼りに進んでいった。
しかし、進むにつれて、道は次第に険しくなり、晴人の心に恐怖が忍び寄った。
「大丈夫、まだ運があるはずだ」と自分に言い聞かせながらも、不安は募るばかりだった。
その時、彼らの目の前に立ちふさがる影が現れた。
まるでその場に「居」るかのように、一切の気配を持たない存在。
「お前たちの運を試す者だ…」その影は言った。
晴人は恐怖のあまり声を失った。
慎太郎や他の友人たちも同様に硬直し、動くことができなかった。
「運を選び、幸を求めよ。それとも…消え去るか。」
その言葉は彼らの心に刺さり、何も出来ないまま時間が過ぎた。
晴人は宿命的な選択肢を前に、自分の願いがどれほど薄っぺらなものであったかを思い知った。
彼が心の奥で抱えていた後悔や未練、さらには運を打開するために進んできた道に、何かしらの意味があったのだろうか。
「やっぱり、歳月には逆らえない。でも運は、今の俺たちの手の中で選ばれるもんだ」と晴人は強く言った。
友達たちもそれに揺り動かされ、勇気を得た。
「私たちの願いはともかく、今を大切にしよう」と直子が言った。
それに同意した瞬間、影は消え、周囲の空気は少し軽くなった。
晴人たちは再び神社の方へ引き返し、彼らの思い出や笑い声が、夜の静けさを取り戻した。
運は自分たちの選択であると知り、彼らは目的地を目指して再び道を踏み出した。