「運命の神社」

雨が降り続く深夜、大学のサークル仲間である健は、肝試しのために怪談話を語ることになった。
彼らは、大学の近くにある古びた神社に集まり、賑やかな笑い声の中、心霊スポットとして有名な場所への恐怖心を高めていた。
特に、彼が語り始めた神社の伝説には、周囲の雰囲気が一変した。

「この神社には、かつて行方不明になった人々の怨念が漂っているんだ。特に、自分の運命を決められた者たちの思念が強いのさ。」

話が進むにつれて、仲間たちの表情は次第に真剣になり、笑っていたのが嘘のように静まり返った。
周囲の木々が風に揺れ、湿った空気が彼らの肌を撫でた。
その瞬間、健は一瞬、後ろに何かがいるような気配を感じたが、すぐに気のせいだと思い直した。
しかし、いくら話を続けても、心の中に消えない不安があった。

「昔、この神社に一人の少女がいた。その子は、親に決められた結婚を嫌がり、神社の奥で一人泣いていたという。そして、その願いが叶わぬまま、姿を消してしまったそうだ。その後、彼女の怨念が神社に留まり、夜になると彼女に出会った者は、永遠にこの場から帰れなくなると言われている。」

仲間たちは愕然とし、霊的な存在の話に引き込まれていった。
健もまた、言葉を発しながら、なぜか背筋が寒くなるのを感じた。
突然、近くの木が大きく揺れ、風の音に混じってかすかに少女の泣き声が聞こえたような気がした。

「大丈夫だよ、みんな。ここは神社だし、何も起きないさ。」

そう言いながらも、彼は心の中では恐怖が広がっていた。
仲間たちも戻りかけた頃、ふと目の前に少女の姿が現れた。
白い着物を纏った彼女は、まるで空気の一部のように静かに立ち尽くしていた。
仲間たちは恐れおののき、動けなくなった。

「どうか、私を助けて…」

その声が耳元で囁かれ、健は思わず後ずさりした。
少女の目には悲しみの色が浮かんでいた。
健は絶対に少女の観念を背負いたくないと思っていたが、彼の心の中で何かが揺らいだ。
彼女の存在は、彼自身の運命と重なり、果たして自分が持つ決断が正しいのか迷わせた。

「あなたは私を思い出してくれましたか?」

少女はそう問いかけ、目の前で一瞬微笑んだかと思うと、再び悲しみが浮かぶ。
彼女の姿が徐々に消えかける中、健は勇気を振り絞り、彼女に向かって叫んだ。

「ごめんなさい!あなたを助けることはできないけれど、どうか自分の生きた証を私たちに残して!」

少女は健の言葉を受け止めたのか、彼へと手を差し伸べる。
その瞬間、健の目の前には無数の亡霊が現れ、一斉に彼に向かって叫び始めた。
「なんで決めつけるの?私たちの時を取り戻して!」

健は恐怖に駆られ、仲間たちの目を確認した。
彼らもまた恐れに震えていた。
彼は感情の揺らぎが少なく、冷静でいるつもりだったが、心臓が高鳴り、逃げ出すこともできず、呆然とその場に立ちすくんでいた。

「どうか、逃げないで…」

少女の声が耳に響く。
彼女の姿は徐々に薄れ、そしてその影だけが彼の心に深く残った。
彼は無意識のうちに何かに強く執着していた。
それは、自分自身の選択が間違っていないかという恐れだった。

仲間たちの目の前には、ひたすらに続く夜の闇が広がっていた。
彼らの心の奥底には、少女と同じような運命が隠れていることを知っていた。
しかし、今の彼にはもうその選択をする勇気がなかった。

神社の周りは静寂に包まれ、仲間たちは一緒に家に帰れなくなり、その呪縛から逃れられないようになってしまったのだった。
時計が深夜を告げる中、彼らの心は永遠にこの神社に囚われている。

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