古びた寺院の境内には、手入れの行き届かない苔むした石畳と、朽ち果てた木々が静まり返っている。
そこは、かつて名のある僧侶が修行を重ねた場所と言われている。
しかし今は、訪れる者も少なく、訪れる者の中には、好奇心から恐れ知らずな者たちもいた。
ある秋の日、若者たちがこの寺院の噂を聞きつけてやってきた。
その中に、一人の施術師がいた。
彼は人々の病を癒やすために選ばれた者であり、自身の力に大きな自信を持っていた。
寺院に入ると、彼は独特の静けさに包まれた。
自分の功を試すため、彼は霊的な力を感じ取る場所へと足を運んだ。
ふと天井から伝わる微かな電気のような感覚に気がつく。
彼の中で何かが目覚め、心の奥に眠る力が反応していた。
「ここには、何かがいる…」彼は声を低めてつぶやいた。
まるでそれが彼を呼んでいるかのように、彼は心惹かれていった。
彼が進むにつれて、電気のような感覚が強まる。
薄暗い通路を抜けると、奥の部屋には不気味な光がともっていた。
部屋の中心には、一人の老僧の霊が立ち尽くしていた。
彼は若者をじっと見つめ、その目には何かを求めるような深い悲しみが宿っていた。
施術師の心が揺らぎ、彼は自分の力が試される時が来たと感じた。
「何を求めているのですか?」施術師は恐る恐る声をかけた。
老僧は唇を動かし、言葉を発した。
「私は生前、運を祈願して多くの者を助けてきた。しかし、私が果たせなかった願いが、この世に残っている。私を忘れないでほしい。私の魂を解放してほしい。」
施術師は真剣に考えた。
老僧の霊を救うというのは、自らの力を証明する大きな機会だった。
彼は自らの手を伸ばし、老僧の霊に自身のエネルギーを送ろうとした。
しかしその瞬間、何かが彼の心に干渉してきた。
老僧の懺悔が、彼の中で渦を巻き始めたのだ。
「私の運命は、その生きた力である。もしあなたが私を救ったら、あなたは一族の中で無限の功を得るだろう。」老僧は強い声で続けた。
彼の言葉は心の奥深くで響き渡り、施術師は迷いに満ちた。
「私は…自分のために力を使えばいいのか?」彼の心は揺れ動いた。
救うことで手に入る功が、自分自身を歪める恐れがあった。
その時、背後で冷たい風が吹き抜け、薄暗い部屋で光が揺らいだ。
施術師はその瞬間、この場所が単なる誘惑の場ではなく、彼自身の選択が人々の未来に大きな影響を及ぼすことを悟った。
「私はあなたの力を取るつもりはありません。でも、あなたを忘れない。あなたが望む運を、他の誰かに託します。」彼は心を決めた。
老僧の表情が驚きに変わり、次第に穏やかさが満ちていく。
「私のこの姿を見ていた者は、私の願いを魂に刻んで再びこの世に流すことだろう。感謝する。」
施術師は老僧の霊に自分の力を託し、彼が安らかに成仏するのを見届けた。
電気のような感覚は消え、静寂が戻った。
その後、施術師は寺院を後にし、老僧の思いを胸にしながら、新たな使命感を抱いて生きることを決心した。
彼の心の中に宿ったのは、ただの功ではなく、他者への思いやりと運をもたらす力だった。
あの日の出来事は、彼を一人前の施術師へと導く道しるべとなり、寺院の記憶は新たな未来へと繋がったのであった。