深夜の静寂が戻った頃、山田哲也は自宅の居間で一人、カップラーメンをすすっていた。
仕事で疲れた体を癒すため、彼は外界の喧騒から離れた時間を楽しんでいた。
しかし、その時、彼のスマートフォンが震えた。
画面には「謎」の通知が表示された。
興味をそそり、思わずタップした。
中には、彼の名前と共に「あなたの運命を変える扉が開きます」と記されたメッセージがあった。
不思議に思いながらも、彼はそのまま内容を読むことにした。
さらに続く文章が目を引いた。
「“発”の場所に向かいましょう。1時間以内に。その先には、運が待っています。」
何気なく、「発」が何を意味するのか考えた。
普段通っている道の名前にはないし、周囲には身に覚えのない場所だった。
ただのスパムだろうと思い、少し笑いながら無視しようとしたが、不気味な感覚が背筋を走った。
「運が待っている」と言われてしまうと、無視するのは難しい。
それが本当に運命の扉を開く鍵であるなら、ちょっと行ってみるかと心を決め、哲也は外に出ることにした。
時計を見ると、ちょうど深夜12時を過ぎていた。
まだ辺りは静かで、街灯の下の道を歩くのは不安でいっぱいだった。
文面から「発」の場所を推測する暇もなく、彼はふと思い立った。
かつて友人と酒を飲んだことのある公園があった。
そこには、何かしらの「発」の要素を秘めているかもしれない。
急ぎ足でその場所に向かうと、公園は相変わらずの静けさを保っていた。
友人たちとの笑い声が聞こえるかのように思い出しながら、ふと、さびれた遊具の前に立ち止まった。
すると、その瞬間、気がつくと彼自身の影が異常に大きくなり、まるで別の存在が彼に寄り添っているかのようだった。
心の中の不安が更に膨れ上がり、身震いした。
そこで彼が見たものは、遊具の陰に湧き上がる微かな光だった。
恐る恐る近づくと、その光は彼がこれまでに見たことのない古びた石碑のようなものだった。
心臓が高鳴る中、手を伸ばしてその石碑に触れた瞬間、霊的な力が彼の体を包み込んだ「運命が変わる」と肝に銘じるような声が耳元で響いた。
次の瞬間、視界が一変し、彼は全く異なる場所に立っていた。
時間も異なる、静けささえ違う。
そこには古ぼけた町並みが広がり、人々の様子も現実と乖離している。
彼はおぼろげながら、この町が存在しないことを悟った。
人々は彼に背を向けて生活していた。
異世界に迷い込んだような感覚を抱きながらも、彼は一歩ずつ進むことにした。
時折気配を感じたが、誰も振り返ることはなかった。
その町の奥には、ひときわ大きな神社があった。
哲也は自らの運の力を信じ、再びその中へ進み入った。
静謐な境内に広がる空気に包まれながら、ふと目をとめると、神社の裏手に何かが隠されていた。
それは、古びた木の扉だった。
扉の前に立つと、再び「運が待っています」という声が耳元で響いた。
今ここで運命を問うのかと、自分に問いかけたが、緊張は次第に解き放たれていった。
哲也はその扉を開く決意を固める。
しかし、心の奥底で彼は思った。
運とは、本当に待っているのか、いったい何から逃げようとしているのかと。
運命は与えられるものか、それとも自分で掴みに行くものなのか。
それらの疑問が入り混じり、彼は静かに扉を開けた。
目の前に広がる世界には、もう戻ることのない記憶が待っているようだった。
運が待つこの場所で、哲也は生涯にわたって謎の中で生きることになった。
この不思議な町で、運とともに生きる道を選んだのであった。