ある静かな村の片隅に、長い間住み着いている師がいた。
彼の名前は涼介。
彼は、村人たちに様々なことを教え、特に若者たちに知恵や技を授けていた。
村人たちは彼を尊敬し、慕っていたが、一部の若者たちの間では、涼介の教えが「幻」であると囁かれるようになった。
彼の説明する現象や、教えられる道理には、説明のしようのない神秘があったからだ。
ある晩、村の若者たちの中で一番の優等生である大輔が、涼介の教えを受けることを決心した。
彼は、涼介の言葉をそのまま信じて、彼自身の運を試そうと思ったのだ。
それ以来、大輔は、夜な夜な涼介のもとへ通い、その知識を深めていった。
しかし、大輔が涼介の教えに夢中になるにつれて、彼は周囲の友人や家族から疎まれるようになった。
涼介の教えには、特定の「運」が関係していると言われ、結果として彼は村を離れてしまったように見えた。
徐々に彼の目は虚ろになっていき、現実と幻想の境目が曖昧になっていた。
村の人々は心配し、涼介に相談したが、彼は「大輔は運命の糸をたぐり寄せているだけだ、心配要らない」とだけ言った。
涼介のその言葉は、村人たちをさらに不安にさせた。
彼らは涼介の言葉が真実であるのか、ただ幻に過ぎないのか分からなかったからだ。
そんなある日、大輔が突如として帰ってきた。
村人たちは驚き、彼に問いかけた。
彼は、涼介に教えられた「く」という現象のことを語り始めた。
それは、何かが「間」から生まれ、そして消えていくというもので、彼はその体験によって何か特別な力を得たのだと言った。
「私はもう、普通の人間じゃない」と自信満々に語る彼は、不気味な笑みを浮かべていた。
村人たちは恐れ、彼を避けるようになった。
時が経つにつれ、大輔は村を支配する存在になった。
しかし、その一方で、彼の周囲には奇妙な現象が起こり始めた。
彼の声が響くと、周りの者たちは奇妙な幻に悩まされ、時に彼の言葉通りの運命に導かれるようになった。
涼介の教えを受けたことで、彼は謎の力を持つ者として立ち上がったのだ。
そして、ある晩、村人たちが集まる広場で、大輔が人々に向けて「運命の輪」を語り始めた。
その中で彼は、「終」の概念について述べた。
「全ての物事には終わりがあり、それを迎えることでしか本当の運命を知ることができない」と。
村人たちは、その言葉に囚われ、彼が指し示す方向へ進まざるを得なくなった。
その時、彼らの目の前に涼介が現れた。
彼は大輔に向かって「お前が歩んだ道が真実なら、果たしてその運は誰のものか、考えてみるがいい」と言った。
大輔はその瞬間、まるで幻想が崩れるように目の前の景色が揺らぎ、彼自身が幻そのものであることに気づく。
村人たちはその様子を見て恐れをなしたが、大輔は何かに取り憑かれたように涼介に向かって進んでいった。
いつしか彼は「終」の時を迎え、その瞬間に彼だけでなく、村もまた、圧倒的な運命に呑み込まれることになった。
やがて、村は静けさを取り戻したが、あの夜の出来事は村に永遠に残ることとなった。
涼介の教えも、大輔の運命も、ただ幻に過ぎなかったのかもしれない。
人々はその「間」で生じた出来事を語り継ぎ、決して忘れないようにしたのであった。
運の中に潜む恐怖を、いつまでも心の奥に秘めて。
