小さな村には、古くから伝わる言い伝えがあった。
それは、運の悪い者が村の外れの森に入ると、必ず悪運に襲われるというものだった。
村人たちはその話を真剣に受け止め、森を避けるように生活していたが、その中の一人、田中明は、運を試してみたくなった。
彼は祖父の語る昔話が好きで、自らの運命を変えたいと考えていた。
明はある晩、月明かりに照らされた森へと足を踏み入れた。
彼の祖父は、「森には悪が潜んでいる。決して近寄るな」と何度も警告していたが、明は興奮を抑えきれなかった。
薄暗い道を進むうちに、彼の心の中で悪魔的な好奇心が渦巻いていた。
周囲は静まり返り、風が木々の間をささやくように通り抜けていく。
しばらく歩くと、明は一軒の古びた小屋を見つけた。
小屋は朽ち果てており、周りには誰も近寄らないような雰囲気が漂っていた。
しかし、彼はその小屋に近づいてみることにした。
中に入ると、無造作に散らばった古い道具や、埃をかぶった家具が目に入った。
その中でも、特に目を引いたのは、真っ黒な石でできた小さな像だった。
その像は悪い運を象徴するような形をしており、明は興味を惹かれた。
彼は笑顔で「これを持っていったら運が良くなるかもしれない」と思った。
しかし、彼の心の中には一瞬、祖父の言葉がよぎった「悪運を招く者には、取り返しのつかない結末が待っている」と。
それでも、明はその像を持ち帰ることに決めた。
夜の間、彼は何度も悪運に関する夢を見た。
夢の中で彼は、運命の悪魔に囚われ、何をしても希望が持てないという状態に陥った。
目が覚めると、彼はその夢をただの夢だと思おうとしたが、不安は消えなかった。
そして日々が経つにつれ、明は不運に見舞われるようになった。
小さな事故や、友人との関係の悪化、果ては祖父の体調が悪化するという事件が次々と起こる。
彼は徐々にその原因が自分の持ち帰った像にあるのではないかと考えるようになった。
このままでは笑顔を失ってしまうと感じ、結局、彼はその像を元の場所に戻すことを決意した。
再び森へ入った明は、手を震わせながら小屋の前に立った。
ところが、そこには異様な気配が漂っていた。
彼の背後から、冷たい風が吹き付け、何かが彼を呼んでいるように感じた。
恐怖に駆られ、明は足を運ばずにはいられなかった。
小屋に入ると、黒い像はその場にあった。
彼は手で包み込むように持ち上げ、再び森に出た。
だが、何かが足りない。
像を戻すための言葉が思い浮かばない。
まるで、自分がその運命に縛られているかのように感じた。
村へ帰る道のりの途中で明は立ち止まり、自分の運の悪さを心の中で嘆いた。
そして、村に近づくにつれ、彼は気付いた。
「これが運命なのか」と。
彼は運が悪い者には、苦しみが待っていることを理解した。
そして、ついに祖父のもとに帰った時、彼の口からは何も言葉が出なかった。
祖父は明の様子から彼の行動を察し、何かを知っているような目をしていた。
その後、明は村での生活を続けたが、彼の心には常に運命の悪魔の影が付きまとっていた。
どれだけ前向きに生きようとも、過去の選択が彼の未来を不幸にするかのようだった。
運が悪い者の脅威は、決して消えることはなかった。
彼は生涯を通じて、「悪を試みた者は、その代償を常に払わなければならない」という祖父の教えを噛み締め続けることになった。