南の国にある小さな村に、長い間人々に恐れられている古い家があった。
その家は、村のはずれに静かに佇み、何もない空間に取り囲まれていた。
村の子供たちは、その家の前を通る時、いつも息を潜めて通り過ぎた。
一度でも勇気を出して近づいた者は、どこか運の悪い出来事に見舞われると言われていた。
ある日、村に住む若者、大輔は家族や友人たちの忠告を無視し、好奇心からその家に足を踏み入れることにした。
彼は孤独感を感じており、刺激を求めていた。
家の中に入ると、薄暗い廊下が続いていた。
壁はところどころ剥がれかけており、古いペンキの匂いが漂っていた。
だが、大輔は何か不思議な魅力を感じ、そのまま奥へと進んでいった。
彼が廊下を進むにつれ、壁に耳を当ててみると、かすかな囁き声が聞こえてきた。
それは、何かに怯えたような声だった。
「運が……来てしまう……」大輔はその言葉に興味をそそられ、声の主を探した。
すると、突如として壁が揺れ始めた。
目の前の壁が波打ち、目に見えない力が彼を引き寄せるような感覚を覚えた。
次の瞬間、彼の視界が暗転し、彼は見知らぬ場所に立っていた。
周囲は無限に広がる壁に囲まれ、不気味に静寂が支配している。
そこで彼は、運が絡んだ不思議な現象に遭遇した。
目の前に一人の女性が現れた。
その女性は薄い白い着物を纏い、長い黒髪を揺らしながら微笑んでいた。
「私の名は、りん。あなたは私を見つけてしまった」と彼女は柔らかな声で言った。
「ここは運を決定する場所。あなたが体験することは、運命の一部です。」
大輔は驚きながらも興奮を感じた。
「運を決定する?どういうことだ?」と尋ねると、りんは微笑みながら続けた。
「この壁は人々の運を吸い取っている。そして、その運が消えると、壁がその人を閉じ込めるのです。あなたは、壁の中で運を渡す者となるか、運を奪われる者となるか、選ばなければなりません。」
まるで夢のような出来事に、彼は困惑しながらも好奇心を捨てきれなかった。
「この運を試すというのは、どうすればいいのか?」と聞くと、りんは壁を指さした。
「この壁を触れてみなさい。そうすれば、あなたの運がどうなるかが分かるでしょう。」
大輔は恐る恐る壁に手を触れ、何が起こるのか試すことにした。
壁はひんやりとしており、やがて彼の目の前に光が現れた。
それは、彼のこれまでの運の記憶であり、未来の運を予告しているようであった。
大輔は自らの期待と不安が混ざった複雑な感情に包まれた。
しかし、彼が次に目を向けたとき、壁の中から多くの人々の影が見えた。
それは彼と同じように、影として閉じ込められた人々だった。
彼らは無表情で、ただ彼に目を向けている。
彼はその光景に恐怖を感じ、「助けてくれ!」と叫んだが、声は消え入り、運に翻弄される運命からは逃れられなかった。
壁の影から逃げようとするが、次第に身体が鈍く重くなっていき、彼の運はどんどん吸い取られていった。
大輔はりんに助けを求めたが、彼女は冷たく微笑むばかりだった。
「運を得る者には代償が必要だ。あなたもその一人になったのです。」
その瞬間、彼の視界は暗くなり、意識が薄れていった。
気がつくと、大輔は村の古い家の前に立っていた。
しかし、彼には何も覚えていなかった。
家に入ったこと、りんとの出会い、そして運のこと。
全ての記憶が霧の中に消えていて、ただ「運を試す者は、運命によって変わる」と村人たちの言葉だけが耳に残っていた。
それ以来、村の子供たちは家の前を通る時、彼の姿を嫌な感じで見つめた。
運の悪い者として、またその家の新たな囚人として。