ある小さな町に「計町」という場所があり、そこには人々が恐れ敬う言い伝えがあった。
「動く運」という言葉で知られるこの言い伝えは、特定の時間に、特定の場所である現象が起こるというものであった。
その言い伝えを知る者は少なく、町の若者たちは興味本位でその真偽を確かめようと、その晩、計町の外れにある「闇の森」と呼ばれる場所に集まった。
特に目立っていたのは、真理という名の女性であった。
彼女は普段からさっぱりとした性格で、仲間たちの中でも特に好奇心が強かった。
その日の夕暮れ、仲間たちは真理の提案で「動く運」を実際に見に行くことに決めた。
彼女は「きっと、何かあるはずよ」と言って強く主張した。
闇の森の奥深くには、特別な時間にだけ現れるという神秘的なシルエットがあるというのだ。
真理たちは恐る恐る森に踏み込み、暗闇が深まるにつれて緊張感が漂った。
やがて、深い闇の中で不吉な予感が広がり始めた。
彼女たちは「運」を引き寄せるために特定の言葉を唱え、誓いを立てることにした。
しかし、その呪文の内容を知っている者はおらず、真理の提案で「運を呼び寄せる」ことを誓うことにした。
集まっていたメンバーはその場で手をつなぎ、片膝をついた。
真理が中心で、彼女の心の中に湧き上がる不安を隠しつつ、「私たちの運よ、ここに集まれ」と叫んだ。
すると、辺りの空気が一瞬震えた。
しかし、その瞬間、彼女たちの目の前に黒い影が現れた。
それは何か人間の形を模したような存在で、身をよじっては意思を持たずに動くものであった。
その姿は薄暗い闇の中でゆらめき、まるで生気が感じられなかった。
仲間たちは恐怖に包まれ、その場から逃げ出そうとしたが、真理は恐れず立ち尽くしていた。
「誓いを立てたなら、私たちは恐れちゃいけないわ!」真理は叫んだ。
影は彼女に向かって動き出し、まるで何かを求めるように伸びていく。
仲間たちは一斉に悲鳴を上げ、真理に向かって呼びかけた。
「真理、逃げて!」
だが彼女の心には決意があった。
「運」とは無形のものであり、得るべきものはただの幸福や成功を意味しないと彼女は気づいていた。
その影が何を求めているのか、運を呼び寄せるための誓いが何を暗示していたのか理解するために、真理は一歩前に出た。
「あなたが私たちを必要としているなら、どうして私たちの運を奪ってしまうのですか?」影は彼女の問いかけに反応した。
その時、不気味な静寂の中、周囲が深い闇に包まれて行く。
その影は少しずつ形を変え、真理の目の前で「運」を象徴するように見えた。
「誓いを立てることで、私たちは運を動かす者になり得るのか。あなたを恐れず、この運を受け入れる。」真理は自らの心をさらけ出し、真実の勇気を持って呼びかけた。
すると、影は弱々しくかすかに動き、まるで何かを聴いているかのようだった。
その瞬間、森の周囲がきらめき始めた。
真理は目を閉じ、生まれたままの「運」に包まれる感覚を味わった。
全てが彼女の心の中で溶け合い、運と向き合うことで、逆にその影が彼女を飲み込み、光を取り込んでいった。
目を開けると、仲間たちは不思議な冷たい静けさを感じていた。
真理の姿はそこにはなく、ただ一筋の光だけが残っていた。
彼女は「運」を受け入れ、闇の中に消えていった。
そして、仲間たちの脳裏には、彼女の言葉がこだました。
「私たちの運よ、いつか戻る日を待っていて。」
計町では今もなお、「動く運」が現れるたびに真理の話が伝えられ、彼女の誓いは深く根付いている。
しかし、彼女の真実には触れられた者はおらず、ただ運の力を恐れて、その影に目を背ける日々が続いているのだった。