「遊園地の亡霊」

佐藤健一は、友人たちとともに週末の遊び場である古びた遊園地にやってきた。
彼らは大人になった今でも心のどこかで子供の頃の遊びを継承しており、懐かしさを感じる場所として、その遊園地を訪れることが習慣となっていた。
閉園の時間が迫る中、彼らは急ぎ足で各アトラクションを回り、笑い声を響かせていた。

しかし、その遊園地には、誰も知らない秘密があった。
数年前に事故が発生し、若い女性が遊具に巻き込まれて亡くなってしまったのだ。
その影響で、遊園地は急遽閉鎖されたが、友人たちがやってきたこの日、恐々とした気持ちでその場所を再訪しようとしたのだった。

健一は、友人の田中と一緒に、最も人気のあった観覧車の前で立ち止まった。
廃墟となったその遊具は、今でも美しい形を保っていたが、全体を覆う錆と埃が、不気味な印象を与えていた。
田中は「ここの頂上からの景色、まだ見てみたいな」とつぶやいた。
健一はその言葉に少し心を躍らせる一方で、どこか不安な気持ちを抱いていた。
友人たちが次々と観覧車に乗り込み、不安を抱える健一を置いて、田中も続いた。

乗るのはどうせ数分間だけだと、自分に言い聞かせて、健一も観覧車に乗り込んだ。
周囲に響くのはガタガタと音を立てる金属音と、彼らの笑い声だった。
次第に上がっていくと、地面が小さくなり、景色が一望できるようになった。
遊園地は今では手入れが行き届かず、雑草が生い茂っていた。
しかも、大きなスケルトンの家のようなアトラクションが、不気味に佇んでいた。

その時、健一はふと気配を感じた。
下を見ると、広場で彼の知らない女性が何かを叫んでいるのが見えた。
彼女の表情はすごく悲しそうで、両手を広げているように見えた。
気になった健一は、思わずその女性に声をかける。
「大丈夫ですか?」しかし、友人たちは笑って、彼をからかうように「お前、何か見えてんの?」と笑った。

その時、観覧車が急に揺れ、健一は驚いて後ろにこけた。
身体が触れた金属の冷たさが冷や汗を引き起こした。
「何だ、いきなり不気味なこと言うなよ」と田中が再度笑う。
しかし健一は決してその女性のことを忘れられなかった。
彼女は明らかに、助けを求めていた。

観覧車が頂上に達した時、健一は恐る恐る顔を上げた。
しかし、そこに女性の姿は無く、ただ空ばかりが広がっていた。
友人たちとの会話が小さくなり、周りが静まる。
周囲が霧に包まれ、視界が急にぼやけ始めた。
その瞬間、彼の耳元で「助けて…」という声が聞こえた。
心臓がバクバク、視界が真っ白に感じられる中、彼は恐怖を感じずにはいられなかった。

観覧車が急に動き出した。
ぐるりと一周した後、今度は急降下を始めた。
友人たちが叫び声を上げているが、自分の声はどこか遠くに消えていく。
健一は心の底から、この遊園地から逃げ出したいと思った。
ところが、楽しいはずの一時が、恐ろしい体験に変わってしまった。

床が崩れ、彼はその場で滑り落ちてしまった。
倒れた先には、先ほどの女性が佇んでいた。
目が合い、彼女の顔には何か苦しみを抱えているかのような不安そうな表情があった。
健一はその瞬間、彼女が求めているのは助けではなく、彼と同じ運命に引き込むことであることに気づいた。
彼女は亡霊だったのだ。

その虚無感と恐怖に包まれ、健一は力を振り絞ってその場を離れようとした。
しかし、周囲はすでに影に覆われており、彼の足元から黒い影が這い上がってきた。
友人たちの声も遠のいていく。
「こっちへおいで」とその女性が言ったように感じた。
彼は恐怖のあまり、意識が遠のいていくのを感じた。

次の瞬間、何もかもが消え、健一は暗闇の中で孤独に立っていた。
彼は、もう元の世界には戻れないことを悟ったのだ。
彼が知っているのは、もう二度とその遊園地に戻ることができない、あの女性と同じ運命を辿ることだけだった。

翌日の新聞には、健一と友人たちが行方不明になったという情報が記載されていた。
そして、その遊園地は今でも誰にも知られずに、人々の記憶から消えようとしている。

タイトルとURLをコピーしました