「途切れた夢の先に」

彼の名は健太。
会社の仕事に追われ、心身共に疲れ果てた彼は、長年行っていなかった実家のある田舎町へと帰省することにした。
普段とは異なる静かな環境に、自分を取り戻すことができるのではないかと期待していた。

実家の家は古びていたが、健太にはどこか懐かしさを感じさせる場所だった。
それでも、その家の周囲には不気味な雰囲気が漂っていた。
特に裏庭の古い蔵に目を引かれた。
その蔵は、子供の頃にも入ってはいけないと大人たちから言われていた場所だった。
しかし、何かが彼を引き寄せるように感じた。

夜になり、健太は眠りについた。
夢の中で、彼は再びその蔵を見つけた。
まるで少年の時のままに、そのドアはわずかに開いていた。
彼は好奇心に駆られ、足を踏み入れる。
そして、蔵の中には何もなかったはずなのに、何かが凝視しているような気配を感じた。

その瞬間、彼の脳裏に「途」という言葉が浮かんできた。
「途」とは、行くべき場所、または道が途絶えたことを示す言葉。
しかし、どこへも進めない不安が彼を包み込み、心臓が乱れる音が届く。
彼は後ろを振り向こうとするが、どうしても動けない。

「助けて…」という声が、知らないうちに彼の耳に届いた。
それは、ぼんやりとした女の子の声だった。
健太は恐る恐る声の方へと進んでいくが、視界は次第に暗くなり、周囲の景色も溶け込むように歪んでいった。

気が付くと、彼は身動きが取れない状態で夢中で走り回っていた。
どこに向かっているのかもわからないまま。
健太は必死で叫んでいたが、何も聞こえず、ただ空気が冷え込む音だけが響いていた。
彼はその時、周囲に漂っていた不気味な空気が彼を包んでいるのだと実感した。

「この場所から出てはいけない」と、どこからともなく声が聞こえた。
その声には冷たい響きがあった。
彼は後ろを振り返ったが、誰もいなかった。
まるで自分だけがこの異次元に取り残されているような感覚に襲われた。
夢の中でさえ現実のように感じられる重圧に、目の前が真っ暗になっていった。

不意に、どこかから光が差し込んでくる。
彼は、その光の方へと足を向けた。
そこには、幼い女の子が立っていた。
彼女も見知らぬ顔だが、どこか懐かしさを感じさせる。
女の子は微笑みながら健太を見つめ、手を差し伸べてきた。
「一緒に来て」と。

健太は思わず手を伸ばし、彼女の手を取った。
その瞬間、すべての恐怖が和らぎ、心がさっと軽くなった。
しかし、目の前の光はすぐに消え、再び暗闇に包まれた。

「途」を示す道を見失ったと感じた時、彼は目を覚まし、ベッドの中で冷や汗をかいていた。
夢の中の出来事を思い出そうとしたが、すでに濁った水のように流れてしまった。
しかし、彼の心の中には重い感覚が残っていた。
実家にいる間はずっと、その感覚がつきまとっていた。

数日後、健太は何とか実家を後にすることになった。
背後から、奇妙な声が「忘れないで」という言葉を響かせた。
それは彼の心にだけ残された感覚だった。
後ろを振り返っても、何も見えない。
だが、確かに何かが彼の進む道を見つめている気配を感じた。

実家を離れた後も、健太の夢の中に女の子の姿が現れることがあった。
そのたびに彼は思う、彼女は何を訴えかけているのか。
ある夜、再び夢の中で彼女に出会い、「一緒に行こう」と言われた気がした。
その声はただの夢なのか、それとも彼の運命を左右するものなのか。
彼は気がついていた、自分の道はまだ途方もないものであることを。

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