美は、静まり返った夜の道を一人歩いていた。
月明かりに照らされた舗装された道は、どこまでも続いているように見えた。
彼女はこの道を何度も通っていたが、今日はいつもとどこかが違う。
まるで時間が逆に流れているかのようだった。
長い髪が風に揺れ、彼女の足元では小さな石が転がって音を立てる。
周囲は静まり返り、聞こえるのは自分の足音だけ。
しかし、その足音は微かに遅れて返ってくるようだった。
美は立ち止まり、背後を振り返る。
影があるはずのない場所に、何かが佇んでいる気配を感じた。
「誰かいるの?」美は呼びかけたが、返事はない。
彼女は不安を感じながらも、一歩前に進む。
しかし新たに感じる気配は、ますます強くなっていく。
道の向こう側には薄暗い森が広がり、その深淵から何かが彼女を見ているような気がした。
美は再び振り返り、「やっぱり誰?」と叫んでみた。
すると、背後の影が一瞬で近づいてきた。
美は驚いて振り向き、そこに映っていたのは彼女自身の姿だった。
しかしその姿は、目を見開き、恐怖で凍りついているように見えた。
その影は語りかけてきた。
「美、あなたが求めていたのは、真実ですか?」美は信じられない気持ちで立ち尽くす。
「求めていたって、何を?」影はじっと美の目を見つめて答える。
「あなたの過去、終わったはずのこと、逆の現実、まるで夢の中にいるみたい。」
美の心にぼんやりとした記憶が蘇る。
かつて彼女は道を歩いたとき、あの森の中で何が起こったのかを忘れようとしていた。
彼女の心の奥には、あの悲劇の痕が刻まれている。
あまりにも大きな悲しみ、それは失くしたものを取り戻すことへの憧れだった。
「私の過去は終わったの。もう思い出したくない。」美は反論する。
しかし影は微笑む。
「終わらせることができると思っていたのに、逆に恐怖はあなたの心の中に残り続けている。だから、向き合うしかないんだ。」
その言葉に美は震える。
過去が時間を逆行し、彼女の前に現れたのだ。
影は彼女を森へと導き、木々の間を進んだ。
深い暗闇の中で、美はその胸の奥にある苦い思い出に触れる。
かつての幸せな日々、その反対には必ず不幸があった。
木の間から、彼女に微笑みかける幼い自分と、そして友達の姿。
だが、すぐにその笑顔が無表情に変わり、悲しみに満ちた哭き声が森全体に響き渡る。
それは彼女が過去に押し込めた感情であり、決して終わらせることのできない運命だった。
「この恐怖に向き合うことができるのか?」影の声が美の耳元で囁く。
彼女は心を固め、ゆっくりと目を閉じた。
自分の心の内を見つめ、その影の中にある真実を受け入れようとしていた。
再び開いた目は、涙で潤んでいた。
美は降り積もった痛みを抱えながら、過去の自分に謝罪し、ついにその過去を受け入れる決意を固めた。
影は優しく微笑み、「さあ、共にその先へ進もう」と促した。
道は、真実を見つめるための通り道。
今まで逃れていた感情と向き合うことで、彼女は新たな光に導かれ始めた。
美の背中を押す影も、彼女の一部として共にいることを実感した。
道を進む先に、新たなる終わりが待っているのか、自分自身を逆に見つめ直すことが未来への道を開くのか。
美は相反する感情を持ちながら、静かに一歩ずつ進み続けた。
道の端に待つものは、心の解放であり、新しい始まりだった。